全2749文字
「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

米国と中国の対立の先行きをとても心配しています。当社は生産面でも販売面でも中国への依存度がとても高いからです。世界がコロナ禍で苦しむ中、トヨタ自動車やホンダは中国市場が急回復していると聞きます。製造業全体に波及すれば良いのですが、米国が中国への規制を強化すれば、そのうち当社も影響を受けるのではないかと不安です。将来動向を予測する方法はありませんか。

編集部:米中の対立が先鋭化しています。新型コロナの影響からいち早く回復した中国市場の恩恵を受けるトヨタ自動車のような日本企業がある一方で、米国の圧力の影響で中国市場でのビジネスに負の影響が生じることを心配する日本企業は少なくありません。こうした中、トヨタ自動車は中国に1300億円を投じて電気自動車(EV)の工場を建設すると一部で報じられています(同社広報部は否定も肯定もせず)。しかし、今、中国に大型投資を行うのはリスクがあるのではありませんか。

肌附氏—中国市場で売るクルマを現地で造るために投資しても、米中対立の影響は受けないと思います。約14億人の中国市場のうち、何%かはトヨタ自動車のEVに乗ってくれるという予測を基に判断した結果でしょう。

 リスクがあるとしたら、中国市場が好調なので他国の市場に輸出する分のクルマの生産拠点まで中国に集約してしまうケースが考えられます。こうして造ったクルマを、例えば米国にどんどん輸出するようなことをすれば、トヨタ自動車は米国からの圧力を受けかねません。当然、その逆も考えられます。そんなことにならないように、トヨタ自動車は常に世界情勢を見ながら未来の変化を予測し、しかるべき手を打っています。

編集部:売れ行きや低コストだけで判断せずに、カントリーリスクをきちんと織り込んでいるということですね。

肌附氏—もちろんです。トヨタ自動車は、クルマのパワートレーンの開発に対して「全方位戦略」を採ることで知られています。クルマはお客様が選ぶのだから、全てのタイプのクルマを提供するという考え方です。こうしたバランス感覚は販売面でも共通しています。トヨタ自動車は特定の市場に偏ることなく、世界の各市場で満遍なくクルマを販売できるように努めています。中国市場の急回復にかこつけて、中国市場だけに投資を厚くして利益の最大化を図るといった発想はありません。

 むしろ、中国市場に対しては、今は良くても将来的には中国の自動車メーカーが力を付けて、トヨタ自動車を含む海外の自動車メーカーが中国市場から追い出される可能性もあるというリスクを織り込んでいるはずです。

編集部:一時期、トヨタ自動車は中国市場で出遅れたと報じられました。しかし、今では同市場で最も好調な企業の1つとなっています。トヨタ自動車は将来の動向を見通す方法があるのでしょうか。