当社はデジタル変革による生産性の大幅な向上を目指しています。開発スピードを速め、コストを下げて、良品率まで高める計画です。そこで、関係する部署から担当者を集めたプロジェクトチームによる議論に着手し、私がリーダーを命じられました。ところが、メンバーがそれぞれ自分の部署の都合を言うばかりで、話がまとまりません。チームの運営をうまく進める方法を教えてください。
編集部:異なる部門から社員が参加し、それぞれの専門的な知見を集めて議論して、製品開発や問題解決に役立てる。トヨタ自動車が「全員参加」とも呼び、フロントローディング開発などに利用されているこの方法の利点は、多くの日本企業に知られているようです。しかし、実際に運営するとそんなに簡単ではないという声も聞こえてきます。その最も大きな理由は、やはりと言うべきか、異なる部門間で利害が衝突するからです。
肌附氏—全員参加では、まずはメンバー全員がその本質を押さえておく必要があります。それは「全体最適」の追求。新製品を造るにしても発生したトラブルを解決するにしても、会社あるいは事業部など組織全体から見て最善の解決策を考え出さなければなりません。従って、こうしたプロジェクトチームを組む場合は、部門の壁を越えて参加者を集めて全員参加を実現した上で、達成すべき目標に向かって全メンバーのベクトルをそろえる方向付けが大切です。
例えば、自動車メーカーで「世界戦略車」と呼ばれる、大量販売が必須のグローバル製品を造る場合、優れた品質を維持しながら、世界の幅広い市場で受け入れられるリーズナブルな価格を実現するという高い目標に皆の意識を向けるのが、大前提となります。いろいろな部門から1つのチームに人を集めたところで、参加者のベクトルがばらばらな方向を向いているのでは、皆が好き勝手を言う“烏合(うごう)の衆"と変わりません。ヒットする世界戦略車など到底造れないでしょう。
編集部:なるほど。しかし、頭では分かっているけれど、なかなか実践できないのかもしれません。「それはそうだと思いますが、でも、うちの部門ではそんなに簡単には対応できません」と。
肌附氏—そこはチームをまとめるリーダーの手腕が問われるところです。リーダーには、忍耐力と共にメンバーを説得する力が求められます。
極端に言えば、メンバーがあまりにも好き勝手ばかり言って、一向にまともな議論にならない場合は、リーダーはショック療法を使ってもいいかもしれません。「この高品質と低コストを同時に満たす方法をみんなの知恵を集めて見いださなければ、売れるクルマは造れない。そんな会社に未来はない。みんな飯が食えなくなるぞ!」と一喝して、メンバーの目を覚ますのも1つの手です。
企業は、社会的責任を果たすのはもちろんですが、利益を出さなければ存続できません。全員参加によるチームを立ち上げたのに、自部門の都合や楽になることばかりを主張して平気なのは、こんな当たり前の前提すら忘れているからとしか思えません。
編集部:耳が痛いと感じる企業は結構ありそうです。
肌附氏—ただし、1つの目標に皆のベクトルをそろえ、前向きな議論に向かったとしても、やはり部門間で負担の差は生じます。「うちはこんなに苦労する」「いやいや、こっちこそ……」と負担のアピール合戦になり、声の大きいメンバーの意見が通る一方、口下手なメンバーが損をするといった事態も起こり得ます。それを各部門で公平な負担になるようにうまく調整するのも、リーダーの役目です。