機械メーカーの開発部門の管理者です。当社は高品質で定評があるのですが、ここ数年、中国企業の製品の品質向上が目覚ましく、競り負けるようになってきました。機械技術だけで勝負するのに限界を感じており、ソリューション分野に活路を見いだしたいと考えています。しかし、当社はそのために必要なデジタル技術に弱く自信がありません。技術者が習得できないリスクもあります。どうすべきか判断に迷っています。
編集部:製造業では今、いわゆる製品の売り切りビジネスではなく、ソリューションビジネスを目指す動きが目立ちます。ものよりも「コト」を売る、あるいはサービスを含めて展開して付加価値を高める狙いです。そのためには、DX(デジタル変革)への取り組みが不可欠です。エレクトロニクスやメカトロニクス技術はもちろん、IoT(Internet of Things)や、統計的機械学習や深層学習を基にした人工知能(AI)技術、ソフトウエアといったデジタル分野の技術も習得しなければなりません。機械系分野には、こうした技術を苦手とする企業が少なくありません。
肌附氏—その気持ちは私にも分かります。かつて自動車メーカーでも、機械技術が中心のものづくりからカーエレクトロニクス化、すなわち電機・電子技術の導入が急速に進んだ時期があります。例えば、今の若い人に「キャブレター」と言っても、通じないかもしれません。
編集部:私はもう若者と呼ばれる年齢からはかけ離れているので、燃料を噴射するための気化器だと知っています。スロットルボディーと燃料を噴射する機能を一体化した構造で、流体力学の原理で燃料と空気を混ぜた混合気をつくり、エンジンの燃焼室に吹き込む部品ですね。でも、さすがにキャブレターを搭載したクルマに乗ったことはありませんし、本物を見たこともありません。本やインターネットで得た知識です。
肌附氏—そうでしょうね。もうキャブレターはクラシックカーくらいでしか見られないかもしれません。今では常識となっている電子制御式燃料噴射装置が、キャブレターに取って代わってから何十年もたっていますから。
しかし、一時期はキャブレターの出来がクルマの走行性能を大きく左右した時代があったのです。その後、燃料噴射が電子化する流れに背を向け、キャブレターを造っていたメーカーの中には苦境に立たされた企業もあります。技術の世界ではこうしたことがしばしば起こります。
編集部:どうしたらよいのでしょうか。
肌附氏—そこを考えるのが製造業の経営者の最も大切な仕事です。ただし、私の経験から言えば、やっぱり、新しい技術には積極的に挑戦すべきだと思います。苦手意識があったり、全く知らない領域の技術であったりしてもです。
私自身が現役の生産技術者だった時を振り返ると、設計ツールや各種計測装置、加工設備、材料と、いろいろな分野で次から次へと押し寄せる新技術を、我々技術者はどんどん取り込んでいきました。そのために必要な費用を会社が惜しんだという記憶はありません。