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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
日本の製造業は今、「三重苦」に襲われています。新型コロナウイルス禍の影響による半導体・部品不足に加えて、ウクライナ危機で深刻になった原材料・エネルギーの高騰、そして慢性的な人材不足です。厳しい環境は何度も経験していますが、今回ばかりは立ち塞がる“壁”の厚さを感じています。トヨタ自動車はこれまでどのように壁を突破して成長に結びつけてきたのでしょうか。

編集部:経済環境の厳しさはどの企業にも降りかかってきます。トヨタ自動車も例外ではありません。振り返ると、特にインパクトが大きかったのは2008年に起きたリーマン・ショックによる世界同時不況です。これにより、トヨタ自動車は同年度に4600億円を超える営業赤字に陥りました。

 ところが、現在ではリーマン・ショックが起きた2008年度と同水準の販売台数でも、トヨタ自動車は大きな利益を出せるようになっています。例えば、新型コロナ禍を受けて2020年度の販売台数は2008年度と同水準にまで落ち込みましたが、2兆円を優に超える営業黒字を確保しました。

肌附氏—両年度の営業利益を大きく分けたのは損益分岐点の差です。トヨタ自動車は、2008年度の損益分岐点を100とすると、2022年現在はそれが60~70まで下がっていると説明しています。3~4割も引き下げているのです。

 その大きな要因を見ると、開発設計面では、複数のセグメント間をまたいで部品を共通化する「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」の活動が効いています。部品点数を絞って量産効果を引き出し、コストも開発工数も抑制できました。

 生産面では、需要変動に対応できる生産ラインの構築が奏功しています。比較的小さな生産規模で立ち上げられるようにして設備投資の金額を抑えつつ、需要が増えたら増設して、減ったら生産規模を落とせる仕組みの生産ラインを導入しました。以前からあった多品種少量生産の考えを具現化したものです。