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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

世界の覇権を巡る米国と中国の対立が先鋭化し、ウクライナ危機によって製造業におけるサプライチェーン(供給網)の分断が深刻になりつつあります。日本の製造業は部品や材料の調達先としても市場としても中国との結び付きが強く、米国と中国との対立がさらに激しくなると、中国製の部品や材料を使った製品を販売できなくなるのではないかと心配しています。中国のサプライチェーンをどう考えるべきでしょうか。

編集部:米国が中国に対する輸出規制をさらに強化しています。米国の安全保障や外交政策上の懸念があるという理由です。米国企業が開発した最先端技術の中国企業への販売を禁止する動きを強めています。

 問題は、米国が他国の企業にも、米国企業の開発した技術を使った製品の販売を禁じる方向で動いている点です。例えば、日本企業が中国市場向けに米国企業の半導体を組み込んだ製品を開発・生産した場合に、もしかするとその製品を中国企業に売るなと米国から圧力をかけられる事態が近い将来に起こるかもしれません。

 今、中国とどのように付き合っていくべきか悩んでいる日本企業は多いと思います。

肌附氏—中国とのビジネスをより慎重に捉えるべき時代に入ったといえると思います。2000年以降、中国は製造業をベースに急速に経済発展を遂げていきました。豊富な労働力と人民元の安さを最大限に生かし、日本をはじめ世界の先進国から資金を集めて工場を建設。技術力や生産力を飛躍的に高めて「世界の工場」の地位を築いたのはよく知られている通りです。今では中国の最新工場の競争力にかなう日本の工場は少なくなっているというのが現実かもしれません。

 米国を本気にさせたのは、2015年に中国が産業政策として「中国製造2025」を掲げた時でしょう。ハイテク産業を育成し、製造強国として世界のトップに立つという目標を打ち出しました。中でも、中国が打ち出した半導体産業の育成強化が、米国の「虎の尾」を踏んだと言っても過言ではありません。情報通信技術から工作機械、ロボット、自動車、そして航空・宇宙の分野まで、その機能や性能は半導体の出来が左右するからです。それを押さえられると、経済的にも軍事的にも中国に負けてしまうという恐れを米国は抱いたのだと思います。

 米国は基本的にフェアな国ですが、いざというときには、当然ながら国益を第一として考えます。かつて日本もクルマが米国市場で売れ過ぎたことが政治問題となり、激しい日米自動車摩擦を経験しました。トヨタ自動車も、一時はドイツの高級車を上回る評価を市場から受けた高級車「Lexus LS400」が対米輸出禁止の仕打ちを受けたことすらあります。我々は米国市場の顧客に良いクルマを提供しようと努めていただけですし、米国に軍事的な脅威を与えるわけなどないにもかかわらずです。

 この自動車摩擦の教訓からトヨタ自動車は「米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)の尾を踏んではいけない。良き米国市民としてGMと共に発展していこう」という考え方をするようになりました。確かにビジネスは競争であり、計上した利益はその結果です。しかし、外国企業が稼いでいることを面白くないと感じる国や国民もいるのですから、気を配る必要があるのです。それは中国も同じこと。おまけに政治思想が異なるのですから、なおさら気を付ける必要があります。

編集部:しかし、現実には中国市場から撤退したら売り上げが大きく落ちたり、中国企業から部品や材料の調達をやめると製品が造れなかったりする日本企業は多いと思います。