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「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み

職歴的にも年齢的にもそろそろ管理職が近づいてきました。自分に部下を管理したり指導したりできるのか少し不安ですが、頑張って部下から頼られる上司を目指したいと思っています。肌附先生がトヨタ自動車で働いていた時に出会った管理者の中で、理想的な上司と言えるのはどのような人でしたか。理想の上司像として参考にしたいので、ぜひ教えてください。

編集部:肌附さんがトヨタ自動車で出会った理想の上司には私も興味があります。

肌附氏—最も印象に残っているのは、私が生産技術部門の技術者としてある開発プロジェクトに携わっていた時のS次長です。直属の上司ではなく生産現場の管理者でした。S次長を一言でいえば「怖いオヤジ」。仕事にはとても厳しく、叱責されたことのないメンバーはいませんでした。しかし、私たちにとっては「心のオヤジ」でもあったのです。心は温かく度量の大きい管理者で、工場で働くみんなを指導するのはもちろん、私たちの苦労を分かってくれて、抱えている悩みの相談にも乗ってくれる人でした。私にとっては理想の上司であり、今なお尊敬している人でもあります。

編集部:管理者の職位を超えて、工場で働くみんなの心の支えになっていたのですね。

肌附氏—その通りです。その分、仕事に関しては妥協を許さない上司でした。会議の席では部下を怒鳴りつけるほど大きな声で叱ることも珍しくありませんでした。あまりの叱責ぶりに涙を流す部下もいたほどです。

 ある時、私もS次長から厳しく叱られました。私が設計を担当した新しい生産ラインで問題が発生して対策会議を開く事態になり、そこにS次長が出席したのです。会議が始まって参加者への現状説明が終わるや否や、S次長の第一声が会議室に響き渡りました。「こんな生産ラインでものが造れるか!もっとよく考えてから造れ」と。会議が開かれた時間は夕方でした。すると、S次長は「もうこんな時間だから俺は帰る。おまえたちは明日の朝までに直しておけよ」と鶴の一声を発して会議室から出て行きました。