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品質問題の頻発に悩む日本企業が増えている─。こう語るのは、デンソーの開発設計者出身で、トヨタグループの品質スペシャリスト「SQCアドバイザ」も務めた皆川一二氏だ。「技術者塾」において講座「品質完璧マスターシリーズ」の講師を務める同氏は、日本企業の品質力の低下が深刻さを増しているという。何が起きているのか。同氏に聞いた。 (聞き手は近岡 裕)

2017年後半から品質偽装問題が続発し、製造業だけではなく社会を騒がす問題となっています。日本企業の最近の品質についてどう見ていますか。

皆川氏:私は品質の専門家の立場から、日本企業の品質は「綱渡り状態にある」と警鐘を鳴らしてきました。相次いで発覚する品質偽装問題を見ていると、「綱が切れそうで渡れない」というのが、率直な感想です。これまでいろいろな会社を指導してきましたが、大手企業でも品質問題が頻発しているというのが実態だからです。というのも企業が、品質の向上や維持のために必要な施策を実施していない。「品質手法」を使っていないのです。

 「いや、うちはやっています」と反論する企業もありますが、よく聞くと形だけになっている。例えば、FMEA(故障モード影響解析)。資料を確認すれば形骸化していることは一目瞭然です。不具合モードまでは書かれています。しかし、不具合の原因の防止策や評価の手法に関する記述がない。それなのに(発生頻度や影響度合い、危険度合いなどを表す)点数だけは記入されている。中身を十分に議論して判断せず、形だけのFMEAを実施している証拠です。

なぜ、形骸化しているのでしょうか。

皆川氏:本当に必要だとは思っておらず、何のためにFMEAを実施するのかを理解していないからでしょう。顧客が取り引き条件にしているから実施しているだけで、本音では「FMEAは面倒くさい」と感じているのではないでしょうか。

 FMEAは品質トラブルを未然に防ぐために実施するものであると知らないか、忘れているのです。FMEAに限らず、品質手法は「何のために実施するのか」を最初に学ばなければなりません。