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 日本人設計者が中国メーカーと一緒にものづくりをすると、なぜか不良品発生などのトラブルが起こってしまうことがあります。しかしその本当の原因は中国に無理解な日本人設計者にあるのかもしれません。駐在の4年半を含めた7年間、中国でのものづくりに関わった私が、失敗経験を紹介しつつ、その理由を分かりやすく解き明かすこの連載。今回は「確実な情報の出し方」に関してお伝えします。

日本では現場がサポートしていた

 日本人設計者はこれまで、有能な技能者(匠や職人)がいる日本の優秀な町工場でものづくりをしてきました。長年のお付き合いのある信頼のできる町工場とは、お互いの話す言葉はもちろん100%通じ合い、仕事の進め方も十分理解し合っています。

 もし図面に多少の不備や不明確なところがあったり、依頼内容に曖昧なところがあったりしても、優秀な町工場の担当者は設計者の意図を理解し、品質の良い部品を作製し、さまざまな依頼にも柔軟に対応してくれます。つまり日本人設計者は、「あうんの呼吸」で仕事をする日本の優秀な町工場に頼り切ってものづくりをしてきたのです。

 私がソニーに入社して最初に担当した業務用モニター(図1)の設計では、私より25歳ほど年上の成形メーカーの営業技術の方に、「小田さんの図面は全部修正しておきました」と冗談交じりに言われたほどです。まだ入社3年目の私が描く図面は、かなり未熟だったのでしょう。

図1 私が最初に設計した業務用モニター
図1 私が最初に設計した業務用モニター

中国では「あうんの呼吸」は通じない

 さて、このように長年にわたって日本の優秀な町工場と仕事をしてきた日本人設計者が中国の部品メーカーに部品の作製を依頼するとどうなるでしょうか。当時、私の経験から得られた図面の品質と、実際に得られた部品の品質のイメージは次のようになります(図2)。

図2 日本の優秀な町工場と中国の部品メーカーの違い
図2 日本の優秀な町工場と中国の部品メーカーの違い
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 日本人設計者が、日本の優秀な町工場に部品の作製を依頼したとします(図2の「現状」の部分)。日本人設計者が描いた図面の出来が80点、つまり、あるべき情報が8割しか正確に伝わらない図面だったとしても、日本の町工場は期待通り(100点)の部品を作製してくれます。それは、日本の町工場は基礎的な技術力が高いだけでなく、日本人設計者の図面に多少の不備や不明確、また依頼内容に曖昧なところがあっても、設計者の意図を「あうんの呼吸」で理解して不備をカバーしてくれるからです。

 一方、中国の部品メーカーに部品の作製依頼をした場合はどうなるしょうか。「あうんの呼吸」は全く通じません。日本の優秀な町工場と比べると技術力の差はありますが、それでも80点を取れる実力がある工場は少なくありません。しかし日本人技術者の図面の不備や配慮不足が悪影響を及ぼし、実力以下の60点レベルの部品が作製されてしまう結果になりがちなのです。

 つまり日本人設計者が、同じ80点の図面を描いた場合でも、日本では100点の部品が作製されるのに、中国では60点の部品ができる結果になります。この60点の部品を見た日本人設計者は「中国の品質は悪い!」「トラブルが多い!」と不満を言う訳です。なお、この場合の点数は、単に部品の完成度だけではなく、部品作製過程の技術以外の業務(コスト交渉、日程管理など)を含んでの評価になります。

 しかし、日本人設計者は大切な事実に気付く必要があります。それは、「中国の品質は悪い!」「トラブルが多い!」と言う前に、まずは自分が100点の図面を描くべきだということです。100点の図面を描くとはこの場合、図面だけでなく会議やメール、会話などで確実に情報を伝えるのも含まれます。つまり、日本の優秀な町工場がカバーしてくれていた「あうんの呼吸」を、日本人設計者が代わりに補えば、中国の部品メーカーは実力どおりの部品を作製できるようになります。

 最終的には、中国の部品メーカーにおいて100点に近い部品を作製するのが目標です。このときに大切になってくるのが「製造現場の確認」です。これを日本人設計者が適切に行えば、たとえ技術力が80点だった部品メーカーでも20点を加算して、100点の部品を作製できるようになります。この内容は第6回以降の「製造現場の確認方法」でお伝えしたいと思います。