日本人設計者が中国メーカーと一緒にものづくりをすると、不良品発生などのトラブルが起きてしまうことがあります。しかし、その本当の原因は中国に無理解な日本人設計者にあるかもしれません。この連載では、駐在の4年半を含めた7年間、中国でのものづくりに関わった私が失敗経験を紹介しつつ、その理由を分かりやすく解き明かします。今回は言葉による依頼と、実際に行動した内容と関係について、日本と中国の違いを紹介したいと思います。
日本には「以心伝心」や「一を聞いて十を知る」、「あうんの呼吸」という言葉があります。社会人になったばかりの頃に上司から、「言われたことだけをやっているようじゃダメだ」と指導された方も多いのではないでしょうか。しかし中国では逆。言われたことをするのが基本となります。もっと言えば、「言われたこと“だけ”をする」ともいえます。それを痛感した出来事をお伝えします。
日本製雑貨の輸出業の手伝いで事件
私は現在でこそコンサルタント業を営んでいますが、ソニーを辞めた当初は技術的に優れた日本の商品を中国に販売する仕事をしようと考えていました。そこで貿易などの勉強をするため、中国駐在を通じて培った人脈から、日本製の雑貨を中国に輸出/販売している日本在住の人を紹介されました。
その方の名前は陳(仮名)さんといいます。陳さんはとても気さくな若者で、5人の中国人を雇い、日本製の雑貨を問屋から仕入れて中国に輸出して販売する仕事をしていました。輸出量はかなり多く、仕事は順調のようでした。陳さんとは何度か食事をして、中国との貿易ビジネスの仕組みを教えてもらったり、中国人と日本人のビジネス上の考えの違いなどを話し合ったりして、かなり親しい仲となりました。
当時、陳さんには1つの悩みがありました。それは日本の問屋との関係構築です。陳さんは、日本には問屋のランクが第1問屋から第4問屋まであると言います。第1問屋は価格が最も安いものの大量に仕入れる必要があり、逆に第4問屋の価格はやや高めですが、少量でも仕入れられます。第2問屋、第3問屋はそれらの中間になるのです(図1)。
陳さんの会社は当時、主に第3問屋と第4問屋から仕入れていました。しかし、業務が拡大して取引量も増えてきたため、第1問屋や第2問屋から低価格で仕入れたいと考え始めていたのです。
ところが、第1問屋や第2問屋と取引するには、それらの問屋との人間関係の構築が不可欠で、中国人の陳さんにとってハードルが高い。そこで私に、第1問屋や第2問屋との人間関係を構築し、取引できるようにしてほしいと陳さんは私に依頼してきたのです。
しかし私にとって問屋との取引は未知の分野です。そこで、まずは仕入れについて勉強するため、あるドラッグストアで日本製雑貨の店頭価格を調べる仕事をするように、陳さんから指示されました(図2)。陳さんによると、このドラッグストアからは店頭価格であれば、ある程度大量に商品を仕入れられるそうです。
調査するにあたって、陳さんは商品名と型番、価格を記載したリストを私に手渡しました。リストに記載されている価格は、陳さんの会社が把握している現状での日本における最安値だといいます。陳さんの会社はその価格で日本製雑貨を仕入れているのですが、このドラッグストアの店頭価格がリスト価格よりも安くなっている場合があるそうです。リストの価格より安く仕入れられれば、利益を上乗せできます。もし安い価格で売っている商品があれば、連絡してほしいと言われました。