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 日本のものづくり企業が、中国で新規の部品メーカーを選定する機会は多くあると思います。今回はその時の注意点についてお伝えします。選定のポイントとしては、経営的・財務的な判断や環境基準を順守できるかなどもありますが、ここでは技術者視点でのポイントを取り上げます。

部品が「どこ」で「どう」造られるかを知る

 部品メーカー選定の大切さを知っていただくために、まず私が経験した“大失態”を紹介します。私は中国駐在中、日本の設計者と中国の部品メーカーを橋渡しする仕事をしていました。日本の設計者から図面を受け取り、中国の部品メーカーと金型について打ち合わせします。その後、金型を使った最初の成形、いわゆるファースト(1st)トライの際に設計者と一緒に部品メーカーを訪問して部品を確認。その後の量産までをサポートするのが役目です。

 ある部品の1stトライを実施した際の出来事です。この部品に関して、私は1stトライ以降から関わることになっていました。部品は800tの成形機を必要とするサイズだったのですが、購買部の選定した部品メーカーは、私の記憶では400tの成形機までしか所有していなかったはずでした。つまり、800tの成形機を必要とする部品を成形できないのではないかと最初に話を聞いたときに疑問を持ちました。

 念のため購買部にそれを確認したところ、担当者は「800tの成形機を持っていると電話で確認してあるので問題はない」と言います。私は1年間以上、この部品メーカーと関わっていなかったため、「新たに800tの成形機を購入したのだろう」と納得しました。

名前も場所も別の工場に連れていかれる

 1stトライに向けて設計者が日本から中国へ出張してきて、一緒に部品メーカーを訪問しました。しかしこの部品メーカーの日本語通訳兼営業の馬さん(仮名)は、私が知っている工場とは別の場所に私たちを連れて行こうとします。私は不思議に思い、車中で馬さんに質問したところ、「関連する子会社の工場です」といった説明を返してきました。

 ところが、いざ到着してみると工場の受付には、依頼したはずの部品メーカーとは全く別の社名が書いてあります(図1)。さすがにこれはおかしいと思い、「完全に別の会社ではないのか」と問いただしたところ、「成形する場所だけ借りていて作業者は自社の社員で成形機も自社のものです」と返してきました。話がころころと変わっています。完全に嘘を付いていると感じたので、さらにしつこく問いただしたところ、やはり全くの別会社だと分かりました。依頼した部品メーカーの社員が退職して起業した部品メーカーだったのです。

図1 知らない部品メーカーに連れていかれる
図1 知らない部品メーカーに連れていかれる
協力工場に到着してみると、明らかに異なる社名の部品メーカーだった。(イラスト:PIXTA)
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 量産開始はおよそ1カ月後に迫っており、1stトライはすぐに始めなくてはなりませんから、今さら部品メーカーを探し直す余裕はありません。1stトライを実施していた部品メーカーは、正式に認定した取引先ではありませんが、「商社を経由して購入していると考えれば問題ないのではないか」とも考え、日本から出張してきた設計者の意見を聞きました。

 すると、設計者はしばらく考えてから「やはりここで量産できない」と答えました。理由は、この工場がUL認定工場でなかったからです。実は、今回の部品は医療用製品の部品でした。そのため、UL認定工場で量産される必要があったのです。部品の裏面にはUL認定工場で製造された証となるメーカーコードの刻印が必要です(図2)。ところが、連れて行かれた成形メーカーはUL認定工場ではありませんでした。

図2 医療用部品の裏面の刻印されるメーカーコード
図2 医療用部品の裏面の刻印されるメーカーコード
(出所:ロジ)
* UL認定工場
米国の認証企業 保険業者安全試験所(UL=Underwriters Laboratories LLC)が策定・認証する製品安全規格(UL規格)を満たす製品を作る能力があると認定された工場。UL規格は材料・装置・部品・道具類などから製品に至るまでの機能や安全性に関する標準化を目的とする。

 そこからが大変です。成形メーカーを変更しなければならなくなりました。私は別の成形メーカーに頼み込み、1週間かけて金型の移管を行いました。なんとか量産開始には間に合いましたが、とても大変な作業でした。その後、大きな問題として社内で取り上げられる結果にもなってしまいました。

 私は1stトライからの担当だったので部品メーカーの選定には関わっていません。しかし、それでも引き継いだ段階で成形メーカーを訪問し、800tの成形機を持っているかを確認していれば、このような問題に発展しなかったかもしれません。自分の部品が「どこ」で「どのように」製造されるかを確認する大切さを、身にしみて感じた出来事でした。