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 中国に出張して現地メーカーを1日かけて訪問したのに「あまり仕事が進まなかった」と感じた経験がある人は多いと思います。私もその1人です。その理由は、とにかく待ち時間が長いことです。

 例えば、私の駐在中にこんな経験がありました。日本語通訳にある依頼をしたところ、すぐ誰かに電話を掛けます。その後「確認して来るので、ちょっと待ってください」と言って会議室を出て行き、そして30~40分は帰って来ません(図1)。しばらく1人で待っていた後、やっと帰って来たと思ったら「それ、まだできてない、確認は午後です」と言うのです。

 では、と別の依頼をすると、またいなくなってしまいます。この繰り返しです。結局、1日が過ぎてもたったの2つの依頼内容しか進捗しませんでした。このようなパターンを何度も経験しました。

図1 日本語通訳は出て行き1人取り残される日本人
図1 日本語通訳は出て行き1人取り残される日本人
(イラスト:闇雲)
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打ち合わせのやり方5つのポイント

 せっかく中国のメーカーを直接訪問するのですから、日程の確認や問題点の指摘、変更の依頼、コストの相談などさまざまな打ち合わせを効率よく実施したいと考えるのが普通でしょう。そこで今回は中国のメーカーを訪問して打ち合わせするときに私が注意してきたポイントを5つ、お伝えしたいと思います。具体的には[1]最初に今日1日で実施したい課題を列挙して計画を立てる、[2]打ち合わせには該当する課題のリーダーや担当者も呼ぶ、[3]必ず日本語通訳を通して会話する、[4]ホワイトボードに書きながら話す、[5]現物、写真、イラスト、データ(数字)を多用する、です。1つずつ説明していきましょう。

 中国人は行動がとても早い。日本人特有の「検討させていただきます」や「社に持ち帰ってから」などという返事はありません。「今」、「目の前」にある課題を即処理したがる傾向があります。中国での仕事ではさまざまなトラブルが頻繁に発生しますが、そのようなときの中国人の解決に向けての行動の早さにはとても感心するときがあります。一方で、ものづくりの検討段階では、この傾向が悪影響を及ぼす場合もあります。

 [1]について、冒頭の話の続きとしてお伝えします。中国のメーカーを訪問する際にはたいてい、幾つかの課題を携えています。訪問したときの最初の打ち合わせにおいて、それらの課題の中で最も気になるものをちょっとでも口に出してしまうと、日本語通訳はその課題を解決するためにすぐ行動を起こしてしまうのです。その行動の早さを頼もしく感じるときもありますが、計画性なしで仕事を進めているとも言えます。多くの課題を俯瞰(ふかん)して全体を把握し、計画的に、効率的に解決していくのではなく、目下の課題をとりあえず処理してしまおうという感じなのです。

 私はこのような事態を避けるため、メーカーを訪問した際に実施する最初の打ち合わせでは、今日1日で実施したい課題を必ずホワイトボードに書くことにしていました。A、B、C、D、Eの5つの課題があったとしたら、まずそれらを列挙してAとCは「品質」に関する内容、BとDは「ラインの作業方法」に関する内容、Eは「部品コスト」に関する内容といったように、それらの課題をカテゴリー分けします。そして、各カテゴリーのリーダーや実務担当者の今日の予定を電話で確認してもらい、AとCは午前10時から、BとDは午後14時から、Eは午後4時から打ち合わせしましょうと1日の計画を立てるのです。

 これは日本でも基本的な仕事の進め方ですが、とにかく行動の早い中国人と一緒に仕事をしているとどうしても中国人のペースになってしまい、日本人の控えめな態度も災いして、結果的に思うようになかなか仕事が進まないことがしばしば起こります。中国人に流されず、自分のペースを保つ工夫が必要です。