2018年秋に発表されたトヨタとソフトバンクの提携は、世間を驚かせた。新しいモビリティーサービスを提供する狙いで全く異業種の両社が組んだからだ。トヨタとソフトバンクのように、業界・業種が異なる相手と協業する事例が製造業で増えている。自社だけでは実現できない画期的な製品・サービスを生み出そうという「オープンイノベーション」(OI)の試みだ。背景には、モノからコトへのシフトや事業環境の急速な変化などから、従来の延長ではいずれ行き詰まるとの危機感がある。
OIは、相手と自分の力を融合して課題解決を実現する、いわば「他力本願イノベーション」である。ここで言う「他力本願」とは決して「他人任せ」というネガティブな意味ではない。「他力本願」はもともと仏教用語で、阿弥陀如来の「一切衆生を救済し幸せにする力」を指す*1。本稿では、本来の意味も踏まえ、他社の助力を得るからこそイノベーションを起こせるという意味で、あえて“他力本願”を使いたい。
*1 もともと、一切衆生が悟りと救済を得るという仏の願いを「本願」、人々が自身では実現しえない悟りと救済をもたらす阿弥陀如来の力を「他力」「本願力」という。
「スピードが違う」「リスクがとれない」
大手メーカーとスタートアップの共創によるOIの成功例といえるのがコマツ。ZMP(本社東京)や米スカイキャッチ(Skycatch)、米エヌビディア(NVIDIA)などと矢継ぎ早に協業し、スマートコンストラクションのトップランナーとなった。コマツが成功したのは、顧客価値創造という視点で分析して得た顧客や市場の課題の素早い解決のために、自前主義と決別して必要なピースを持つ企業と組む道を積極的に選んだからだ1)。
しかし、コマツのような成功例は多くない。そこには、パートナーとして適切なスタートアップを見つける難しさ、スピード感や文化の違い、イノベーション創出のための人材の欠如、といった課題が横たわる(図1)。日経ものづくりが行ったアンケートでも、こうした問題点を挙げる声が多数寄せられた(「現場の声、読者の声」)。
PwCコンサルティング(本社東京)シニアマネージャーの新井本昌宏氏は、OIにおける典型的な悩み事として次の4つを挙げる(Part3「10テーマのうち5テーマで成功を 価値やチャレンジ度を重視せよ」)。1つは、手段であるはずのOIが目的化し、本末転倒になってしまうこと。経営層の方針に沿うよう、自社だけで十分な取り組みを無理に外部と連携したり、外部との連携の実績作りのために価値のない取り組みをしたりといった状況がある。
2つ目は、リソースの分散である。テーマ選定に重点化の方針がないと、あれもこれもとなり、テーマが分散する。3つ目は、意思決定の難しさ。スタートアップなどへのリスクの高い投資に対する判断が難しく、ローリスク・ローリターンを選びがち。4つ目は、そもそも外部との連携が難しいこと。例えば、スタートアップが大企業の意思決定プロセスに合わせると、スタートアップの体力がもたない場合がある。
オムロンイノベーション推進本部SDTM推進室長経営基幹職の竹林 一氏は、「イノベーションの『軸』が定まっていない取り組みが多い」と指摘する。同氏の言う「軸」とは、目指すべき将来像や解決すべき課題を意味する。例えば、オムロンが自動改札機を世界に先駆けて世に送り出せたのは、自動改札機というハードの開発目標があったわけではなく、駅の混雑や改札の駅員の負担をどうすれば軽減できるかを突き詰めていった結果だからだという。