「製品や生産設備にはどの材料が適するか、どのように加工すべきか」といったことを判断して選択するためには、材料の「性質」を見定める必要があります。前回(2019年6月号)までは「頑丈さ」や「硬さ」、「粘り強さ」など、外部から力を加えられた時に変形したり、破壊したりする現象に関する「機械的性質」についてみてきました。これらは、変形や破壊といったように材料の見た目(部材の形)が明らかに変化するので「動的な性質」とも言えます。
これに対して、外部からの力に対する変化を伴わない材料の性質、つまり「静的な性質」もあります。静的な性質は「物理的性質」と「化学的性質」に分けられるのですが、今回は前者の物理的な性質として「重さ」と「熱に対する性質」を取り上げます*1。
質量は「密度」から計算する
物理的性質の中でも最も身近な「重さ」からみていきましょう。「重さ」は日常的に使う言葉ですが、人がものを持った時や動かそうとした時の、いわば感覚的な意味も含みます。機械設計など工業の世界では、物体に含まれる物質の量を示す「質量」を使った方が正確だと言えます(別掲記事を参照)。以下では、この「質量」で説明を続けていきます。
基本的に、設計する製品の質量は必ず算出する値です。製品の仕様として、質量を明記しない場合はほとんどありませんから、各部品の質量も把握しておく必要があります。機械設計では特に、動く部分(部品やモジュールなど)の質量が重要となります。設計時にその部分の質量が分からないと、可動部分で採用すべきモーターやシリンダーなどを選定できないからです。例えば、ロボットのアーム部分の質量が分からなければ、それを動かすためのモーターの出力をどの程度にすればよいのかを決められません。製品が完成した状態での動きだけでなく、生産工程での組み立てや搬送などで使うモーターを選定するためにも質量は必要な情報になります。
では、質量をどう把握すればよいのでしょうか。標準部品などの既製品を購入するなら、その値はメーカーが提供するカタログなどで確認できます。しかし、形状やサイズを設計者が決める部品は自分で調べなくてはなりません。
そこで必要となるのが、材料の単位体積当たりの質量を示す「密度」です。質量は形状やサイズによって変わりますが、密度は材料によって決まっています(図1)。密度が分かれば、設計するものの形状やサイズから体積を計算し、その値を乗じて質量を算出できます。体積によって変わる「可変」の質量ではなく、材料によって「不変」の密度こそが材料の性質を示す値なのです。設計するものの材料を選ぶ際には、この密度を知っておく必要があります。
密度は、国際単位系のSI単位*2では「kg/m3」と定義されていますが、1m角の質量では直感的には分かりにくいので、以下では密度の単位としてg/cm3を使います。1辺が1cmの立方体(さいころ)の質量をイメージして下さい。
international system of units。1960年国際度量衡総会において採択された。SI単位系とは、フランス名 système international d'unitésに由来する。国や文化、技術分野などの違いにかかわらず、普遍的な国際計量標準を作り出すために国際的に定められた。同じものの重さや長さを示す単位が国や文化によって異なることによって生じる混乱を防ぎ、技術の発展を促し、ものの取り引きなどを円滑に進めるために認められた単位系。基本単位は、m(メートル):長さ、kg(キログラム):質量、s(秒):時間、A(アンペア):電流、K(ケルビン):熱力学温度、mol(モル):物質量、cd(カンデラ):光度。
代表的な材料の密度として、鉄は7.87g/cm3、アルミニウムは2.70g/cm3、銅は8.92g/cm3(表1)。つまり、同じ体積であればアルミニウムは鉄の1/3程度の質量になり、銅は鉄の1.1倍程度の質量です。非金属のガラスは2.50g/cm3ですから、アルミニウムとほぼ同じ質量になると分かります。このように密度を把握しておくと、ある一定の体積の部品で材料を変えると質量がどう変わるのかが分かるのです。
一方、質量についての肌感覚を持っておくことも大切です。身近にある生活用品や食品などの質量に置き換えると、計算結果として得られた質量をイメージしやすくなります。例えば「1g」は1円玉の質量、「1kg」は牛乳の1Lパックの質量です。ビールで満たされた大ジョッキは、ビールが800g程度でジョッキが200g程度なので、合わせてだいたい1kg。「100kgレベル」は相撲の関取の平均体重がだいたい150kg。「1000kg=1tレベル」になると、乗用車がおおよそ1500kgです。