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 前回(2019年12月号)までは、炭素鋼や合金鋼などの「鉄鋼材料」について解説しました。今回からは鉄鋼以外の金属である「非鉄金属材料」の特徴や選択の際のチェックポイントなどを紹介します。まずは、非鉄金属材料の代表選手、アルミニウム(Al)です。

 Al合金は鉄鋼に並んで身近な金属材料です。例えば、1円玉や飲料缶の多くはAl合金製です。スポーツ自転車のフレームや家屋のアルミサッシなどにも使われています。

 Alはボーキサイトという鉱物から酸素を離して取り出します。鉄鉱石から酸素を離して鉄を取り出すのと同じです。しかし、Alと酸素の結び付く力が非常に強いため、ボーキサイトから酸素を離す電気分解には大きな電力が必要となります。つまり、Al合金の生産コストは鉄鋼材料などに比べて割高です。

 コストが高いにもかかわらず、Al合金は鉄鋼材料に次ぐ生産量を誇ります。というのも、Al合金には鉄鋼材料にはない、優れた性能があるからです。

鉄より軽くてさびにくく、加工性が高い

 ざっくり言うと、「鉄より軽くてさびにくく、加工性が高い」というのがAl合金の特徴です。

 何と言っても最大の特徴は、鉄に比べて約1/3の「軽さ」です。例えば、マグネシウム(Mg)を添加した、Al合金の中で中程度の強度(降伏点と引張強さ)を示す「A5052」*1は、1cm3の立方体なら2.70g。炭素鋼のSS400の密度は7.87gなので約1/3です(表1)。

表1 アルミと鉄の主な比較表
(出所:西村仁)
性質 アルミニウム(A5052) 鉄(SS400)
密度(×103kg/m3 2.70 7.87
引張強さ(N/mm2 260 400
硬さ(HV) 60前後 120前後
縦弾性係数(×103N/mm2 71 206
導電率(×106S/m) 37.4 9.9
線膨張係数(×10−6/°C) 23.5 11.8
熱伝導率(W/(m・k)) 237 80
融点(°C) 600 1530
*1 AlのJIS記号は、Aluminium(アルミニウム)の頭文字「A」に、合金元素の種類を示す4桁の数字が続く。鋳物の場合、「A」の後に鋳造の種類の記号を続ける。

 Al合金は航空機の軽量化を目的として開発を進められてきましたが、現在では地下鉄などの列車から人工衛星まで、その軽さ故に幅広く使われています。

 Al合金はステンレス鋼と同様、大気中で自然に表面に酸化皮膜が形成されることにより、酸素と水分を遮断するので耐食性に優れています。つまり、「さびにくい」のです。表面をアルマイト処理*2すれば、人工的に酸化皮膜を形成して皮膜の厚みが増えるので、さらに耐食性を向上させられます。

*2 アルマイト処理
Al合金の表面を陽極として、主に強酸中で水の電気分解によって強制的に酸化させ、コーティングする表面処理の総称。

 加工性も非常に優れています。機械加工の切削性も抜群に良く(切削抵抗が小さく)、他の材料に比べて面白いようにサクサク削れます。高速加工や大きな切り込みも可能です。

 熱伝導率は銀や銅に次いで高いので*3、切削熱を拡散できるからです。熱伝導率はA5052が237W/(m・k)で、SS400の80 W/(m・k)に比べて約3倍の伝えやすさです。ただし、熱伝導性の高さは熱が逃げやすいことでもあり、溶接性は鉄鋼材料に比べて劣ります。先述した表面の酸化皮膜も溶接性にはマイナス要素です。

*3 銀と銅より安価なので、放熱に用いる冷却フィンにAl合金が使われるケースが多い。

 力に対しての丈夫さは鉄より劣ります。先述したAl合金の中で中程度の強度を示すA5052は、変形のしにくさをあらわす剛性を示す縦弾性係数が71×103N/mm2で、SS400の206×103N/mm2に比べてこちらも約1/3です。つまり、同じ力がかかると鉄の3倍の変形量が生じます。ここまで紹介したようにAl合金と鉄鋼材料を比較すると「1:3」の比率が多いのは興味深い点です。

 なおAl合金を採用した部品でたわみ量の大きさが問題になる時は、断面形状を変えて対応します。例えば、丸棒を断面積が同じパイプ棒に変えるとします。直径が6mmの丸棒を外径が10mm、内径が8mmのパイプに変えれば、軽さ(質量)は全く同じままでたわみ量を約1/4.5に改善できます。これは断面二次モーメントを用いれば容易に計算できます。

 たわみが問題になった時に、鉄鋼材料に変更してたわみ量を1/3にするのには疑問符がつきます。Al合金を選択したのは、価格よりも軽さを優先したからです。それにもかかわらずたわみ量の問題を鉄鋼材料への変更で解決すれば、優先したはずの「軽さ」を失うわけです。それなら、はじめから鉄鋼材料で設計すべきだったわけです。

 鉄鋼材料に比べると弱いとはいえ、加える元素によっては強いAl合金を造れます。例えば、亜鉛(Zn)とMgを添加したA7000系は、アルミ合金の中で最も高い強度を得られます。A7075は、炭素鋼のSS400を超える引張強さがあります。A7075は高価ですが、「超々ジェラルミン」と呼ばれる、軽くて強い金属の代名詞です。

 注意が必要なのは温度変化に対する性質です。線膨張係数を見るとSS400は11.8×106/Kなのに対して、A5052は23.5×106/Kと約2倍。つまり、同じ条件ではAl合金は約2倍の伸び量が発生します。特に高い寸法精度が求められる場合、この伸び量の事前確認が必要です。

 Al合金の最高使用温度は200°Cが目安となります。200°Cを超えると強さが急激に下がるからです。融点はSS400が1530°Cなのに対してA5052は600°C。融点が低いのは裏を返せば鋳造性が高いとも言えます。融点が低いだけでなく、溶けた状態でも表面を酸化皮膜で覆われるのでガスを吸収しにくく、湯流れが良いため薄肉や複雑な形状の鋳物を作るのに適しています。