材料知識の習得は、技術者にとっても他の分野と比べて難しいと思います。そもそも種類が膨大(ぼうだい)なので、勉強しようとする時点で億劫(おっくう)になってしまいます。それに、材料を目で見ても細かな成分や性質の違いは分かりません。
今回は材料編の締めくくりとして、材料知識の習得がなぜ難しいのか、どうすれば効率よく学べるのかについてお伝えします。
材料を学習する上での難しさの原因を挙げてみましょう。
- 1)材料の種類が非常に多い
- 2)見ただけでは種類が分からない
- 3)結晶構造などの難解な金属学が入ってくる
- 4)JISの一部に実務の感覚とズレがある
種類が多いのはなぜか
材料は、なぜこれほど種類が多いのでしょうか。歴史を振り返ると、大昔は石や木、土といった、身近な自然環境にあるものをそのまま材料として使っていました。そのうち土を焼いて、陶器やレンガなどの丈夫な素材を生み出すようになりました。さらに自然のものに手を加えて、石から鉄を生み出すといった発見があり、技術の発達によってアルミニウムやチタンなども取り出せるようになりました。
材料の種類を飛躍的に増やしたのは合金でしょう。人類が金属を取り出せるようになっても、成分が1種類では強さや硬さが低いので、ほとんど実用になりませんでした。やがて、金属に他の成分を溶かし込むと、強さや硬さを向上できると分かってきました。例えば、混じりけのない純粋な鉄では軟らかすぎるので、炭素を加えて実用に耐える硬さや強さにします。
鉄は炭素の他に、クロムやニッケル、マンガンなど多岐にわたる成分を加えることで、種類は一気に増えます。さらに、軟らかさが必要なときには炭素を少しだけ加え、硬さが必要なときは多く加えるなど、成分の比率でも材料の性質をコントロールできます。これらにより、種類は天文学的といえるほど増えてしまいます。
3つの制約で種類を絞り込む
そこで、いくつかの制約によって種類を絞り込みます(図)。1つ目の制約がJIS(日本産業規格/これまで日本工業規格と呼ばれてきたが2019年に改称)です。このJISにより材料の種類と成分を規定しています。それでもJISハンドブックで関連するページ数を合わせると数千ページを超え、まだまだ多いのが実情です。
そこで2つ目の制約として、デファクトスタンダード(事実上の標準、または業界標準)を利用します。市場において皆が特定の種類を集中的に採用することで、絞り込みにつながります。例えば鋼材の一種であるSS材(一般構造用圧延鋼材)は、JISでは4種類の規定がありますが、実務ではこの4品種を均等に使うわけではなく、そのうちの1品種「SS400」を集中的に採用します。これにより製鉄メーカーは量産効果を得られ、価格も下げられるので、利用者にとっても大きなメリットになります。デファクトスタンダードはこのように、強制的なルールではなく市場の原理で絞り込まれたものです。
3つ目の制約は自社での標準化です。自社独自の選定基準をルール化し、さらに絞り込みます。これにより[1]材料選定の検討時間を大幅に短縮し、[2]材料の発注作業を簡素化し、[3]加工部門での材料の在庫量も減らせます。全体最適にもつながり、非常に有効です。