今回からは「加工の5つの大分類」の5番目として、形を変えずに材料の特性を変える「熱処理・表面処理」を紹介します。まずは、材料に熱を加えてから冷やし、その過程で材料の性質を変える「熱処理」です。以下では、主に金属材料の熱処理を想定して説明します。
材料の全体や表面の性質を変える
熱処理には「焼入れ・焼戻し」「焼なまし」「焼ならし」「高周波焼入れ」「浸炭焼入れ」といった種類があります(図1)。まずは各熱処理の目的の違いについて説明しましょう。
焼入れ・焼戻しは材料全体を硬く、粘り強くする処理です。材料は一般に硬くなるほどもろくなってしまいます。ところが、硬くて粘り強い性質の材料が欲しいときがあります。この性質を生み出す唯一の方法がこの焼入れ・焼戻しになります。
逆に「焼なまし」は材料を軟らかくしたり、材料の内部に残った応力を除去したりする熱処理です。焼きなましは「焼鈍(しょうどん)」とも呼ばれます。「焼ならし」は材料の組織を標準状態に戻すために行います。
一方、材料の表面だけに焼入れ・焼戻しを施して硬さの2重構造を狙うのが「高周波焼入れ」と「浸炭焼入れ」です。内部は軟らかいままなので大きな力が加わってもクッションのように受け止められるため、衝撃に強く、かつ耐摩耗性にも優れた性質が得られます。
これらの熱処理はいずれも、基本的に「加熱」「保温」「冷却」というプロセスになります(図2)。それぞれの熱処理で、加熱する温度や加熱・冷却する速度などが異なっており、それによって目的の性質を得ています。
特に大きく異なるのが冷却の速度です。おおざっぱに言うと、焼入れ・焼戻しは「急冷(水冷や油冷)」、焼なましは「炉冷」、焼ならしは「空冷」となります。急冷、空冷、炉冷の順で冷却の速度は遅くなっていきます。焼なましの炉冷とは炉の中に入れたまま冷却する方法で、半日や1日をかけてゆっくり冷やす場合もあります。