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 「3分の1の作業者で生産スピード3倍」(安川電機の安川ソリューションファクトリ)、「生産能力を7割向上し、必要人員を半減」(ダイヘンの六甲事業所)といったように、工場のスマート化によって大幅な生産性の向上と省人化を同時に実現した工場が増えている。スマート工場の実現に向けた取り組みは、生産する製品の種類や数量、企業風土などによってまちまちだが、日本ならではの共通項も見て取れる(図1)。

図1 日本におけるスマート工場の取り組み
図1 日本におけるスマート工場の取り組み
IoTや人工知能(AI)、画像認識技術、協働ロボット、自律AGVなどの最新技術を活用しながら、人と機械が混在する中での最適化を目指している。
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 目に付くのが「人による作業」にしっかりと目を向けている点だろう。ロボットの導入による自動化などを進める際、やみくもに人から機械へと置き換えるのではなく、「どこを自動化すべきか」を見極めて導入している工場が多い。

 IoT(Internet of Things)や画像認識技術などは製造装置だけでなく、人の作業にも適用できる。人の動きをデータ化して分析し、自動化すべき工程や作業を明確にする。さらに、そのデータや分析結果で、人の作業自体の効率を高める。こうした取り組みは、生産性や品質の向上による競争力強化に加え、人手不足への対応としての省人化、マスカスタマイゼーションのような変種変量生産へ対応できる柔軟性の実現にもつながっていく。以下、本特集で取り上げた事例でこれらのポイントを見てみよう。

人の作業をデジタルで分析可能に

 IoT活用では工場内の製造装置や工作機械、ロボットなどをネットワークに接続し、さまざまな情報を収集して見える化する用途に視線が行きがちだ。しかし、先進的なスマート工場では機械だけでなく、作業を行う人の動きのデータ化にも力を入れている(図2)。

図2 スマート工場におけるデータ活用
図2 スマート工場におけるデータ活用
IoTや画像認識技術を活用し、人と機械の両方についてデータ化する。それらを分析して人と機械の役割分担の最適化を進めると同時に、生産計画や機械の稼働条件など生産プロセスの制御にも活用する。さらに人手による作業をサポートして効率の向上まで狙う。
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 例えばパナソニックの家庭用コージェネレーションシステム「エネファーム」の燃料電池を生産する草津工場では、自動化に向かない手作業の工程の改善活動を推進するため、人の動きをデータ化する自社開発のモーションセンサー・システムを導入している(図3)。作業者の動作や所要時間が適切かどうか、疲労度が高い作業になっていないかなどを映像から自動的に分析する。得られたデータは、手作業の効率化をさらに進める改善活動に生かしている(パナソニックの事例を参照)

図3 パナソニック草津工場のモーションセンサー・システム
図3 パナソニック草津工場のモーションセンサー・システム
作業者の動きを映像から自動的にデータ化して改善活動などに生かしている。
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 UMC・Hエレクトロニクスにおけるスマート化の取り組みも人への配慮がポイントとなる。人の動きをデジタルで記録する仕組みを作業台に導入し、作業時間などの分析に活用。加えて、「とっさの判断が必要になる作業」は人に、機械が得意な「単純な繰り返し作業」は機械にと、人と機械に作業を効率的に配分する(UMC・Hの事例を参照)

 こうした考え方はIoTや画像認識技術などが登場し、工場全体に適用されるようになって実現しやすくなった面はあるが、それに限った話ではない。例えば、TDKでは品質向上を目的に全製品の製造工程を全てゼロから見直す大胆な改善活動「あるべき姿活動」を進めている。人手による作業の中で品質不良につながるリスクを洗い出し、そこを改善しようという取り組みだ。改善の手段としてはロボットなどによる自動化だけでなく、工場レイアウトの見直しなども含めて幅広く検討する(TDKの事例を参照)。