コスト感覚がなければできませんね。
國井氏:その通りです。設計リーダーにはさまざまな能力が求められますが、こうした攻撃的戦略には特にコスト感覚が重要になります。
実は設計リーダーに限らず、ほとんどの設計者はコスト感覚を軽視しているのが実情です。コスト感覚が「欠けている」というレベルではなく、「ない」設計者さえいます。部下ならまだしも、設計リーダーにコスト感覚がなければ競合製品に勝てる製品を企画したり、設計したりできるはずがありません。
設計部門が企画するのですか。
國井氏:その通りです。製品の企画を設計部門ではなく、独立した企画部門が立てている企業が多いのは事実です。しかし、攻撃的戦略を立てるなら、設計部門が企画に関わるべきです。ましてや、中小零細企業に企画部門など存在しません。設計部門または技術部門が企画に関わる以外ないのです。
攻撃的戦略の第一の敵が誰だか分かりますか。社内の反対勢力です。革新的な製品は通常、現状維持を重視する保守派からの反対を受けます。その反対派を説得するためには、市場調査の結果や投資対効果などを把握して説得しなければなりません。説得するためには企画から関わるべきです。
回転ずしのハンバーガー販売に学ぶ
國井氏:典型的な攻撃的戦略の実例があります。回転寿司大手の「くら寿司」が販売を始めた、米粉を配合したバンズと天然魚から作ったパテのハンバーガーです。同社のウェブサイトによると、構想から販売開始まで5年かけ、寿司ネタに使えない部位を活用し、コロッケなどの加工方法や技術をヒントにしたそうです。
飲食業と製造業との違いはあるものの、革新的な製品の開発・設計に時間がかかるのは変わりません。恐らくくら寿司でも、材料や加工方法について議論を重ねたはずです。実情を知っているわけではありませんが、「回転寿司でハンバーガーを出して売れるのか」「魚からどうやってパテを作るのか」「いくらで売れるか」と口角泡を飛ばした議論が交わされたでしょう。
製造業に置き換えて考えてください。こうした製品の企画に、設計部門が関わらなくてよいでしょうか。早い段階で設計部門が材料や加工方法、コストに意見すべきです。つまり、フロントローディングが必要なのです。そのためには他の部署と交渉できる、いやプロジェクト全体を引っ張っていける設計リーダーが参加しなくてはなりません。
コスト感覚だけではなく、技術力も必要ではないでしょうか。
國井氏:それは自明です。設計リーダーに技術力がなければ部下もついてきません。ましてや攻撃的戦略を打ち出すのに、材料や加工技術に関する知識が欠けていたり、図面が書けなかったりする設計リーダーではいけません。
もっとも、検図もできない技術力の不足した設計リーダーが多いのも事実です。こういう設計リーダーには技術力を自己研鑽してもらうしかありません。しかし、自己研鑽だけでは企業全体の技術力が向上しないので、私はクライアント企業などには設計審査力の向上を提案しています。
設計者が自己研鑽以外に設計力を磨く修行の場として、設計審査を乗り越えるという「修行」は重要です。ところが十分な設計審査が実施されていないのが実情です。「却下」がないケースが多いのです。「承認」か「条件付き承認」、もしくは「保留」ばかりです。こんな厳しさがない状況では、設計者にとって「修行」の場になり得ません。
社内できちんとした判断基準を確立し、きちんとした設計審査を実施する。これだけで設計者の実力はつくし、審査する設計リーダーの技術力も向上します。
技術力の基本はミスを出さず、不良率を下げ、品質管理するための「守備」です。この守備力をしっかり確保した上で、競合製品に打ち勝つための攻撃的戦略を練る。そんな戦略マネジメントが、これからの日本の製造業を変える最重要ツールになるはずです。
國井技術士設計事務所