全3050文字
PR

「過去のトラブル集や故障のメカニズム集などを活用して、設計段階で設計ミスを見つけられる仕組みを構築すれば品質問題をゼロにできる」。ワールドテック講師の本田陽広氏はこう力説する。「日経クロステック・ラーニング」で「『過去トラ』を使った品質不具合の未然防止法」の講師を務める同氏に、不具合を出さない設計を実現するためのポイントを聞いた。(聞き手は高市清治)

本田 陽広 氏
本田 陽広 氏
ワールドテック 講師

設計段階で設計ミスを見つけられる仕組みを構築すれば、品質不具合をゼロにできると主張されています。

本田氏:できます。実際、デンソー在籍時に実現した経験があります。品質トラブルの事例集である「過去トラ(過去のトラブル)」の充実などによってデザインレビューの改善を図り、有効なFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モードとその影響の解析)を実施できる体制を整えたところ、それまで1年に1、2件あったリコールが2004年以降、ゼロになりました。この成果を評価されて、2009年に日本科学技術連盟から日本品質奨励賞を受賞しています。実施すべきことを実施しさえすれば、不具合をなくせます。

FMEAについて説明してください。

本田氏:不具合の発生を未然防止する手法です。設計段階で設計ミスを見つけ出し、そのミスを是正して不具合を防ぎます。故障が発生し得る状況を把握した上で、その設計が抱えている可能性がある問題を発見することで、設計ミスを洗い出すのがFMEAのポイントです。

 製造業界では広く普及しているので、説明の必要はないかもしれませんが、一般的な作業の流れをざっとおさらいしましょう。まず設計者が試作図の作成時にその製品の要求仕様などの資料を事前に集め、あらかじめ作成してある記入フォーマットに部品名やその部品の機能、設計の変更点・変化点、不具合の発生が予想される状況などを記入。設計の解析に必要な、いわば「FMEAシート」を作成します。

 これを基に専門知識を持つスタッフを交えてデザインレビュー(DR)を実施。設計が内在している、不具合が発生し得る問題点を漏れなく見つけ出し、その解決策を打ち出します。

FMEAの効果を上げるにはどうすればよいですか。

本田氏:実効性の高いDRを実施するために「過去トラ」など必要な道具をそろえ、DR開催のためのノウハウを設計チーム内や社内で共有する。こうした仕組みを円滑に動かすために人材育成などソフトの充実を図る。大きくこの2つでしょうか。

 DRが重要なのは、ものづくりに関わっている人ならほぼ自明と言っていいでしょう。しかし、漠然と人を集めて、だらだらと議論を続けるだけでは意味がありません。FMEAでは「故障が発生し得る状況を把握した上で、その設計が抱えている可能性がある問題を発見する」点に注力して、効率的かつ十分に設計に潜むミスを見つけ出します。

 そのための三種の神器があります。過去トラ集と今後起こりうる故障のメカニズム集(以下、「故障メカニズム集」)、設計ノウハウ集です。デンソー在籍時にはこれらをまとめた「FMEA辞書」を作成し、設計者に配布して、FMEAの実効性を高める一助としました。

 過去トラは、設計部署が過去に起こした品質問題の事象や原因、解決策などをまとめたデータ集です。故障メカニズム集は、「材料技術部」のような部署があるティア1クラスの企業ならたいてい作成しているはずです。

 故障メカニズム集があれば、まずはその見直しから始めます。ない場合は、新規に故障メカニズム集を作成します。いずれも社内のトラブル情報だけで満足してはいけない点で共通します。経験したことがないトラブルもリストアップする必要があるのです。樹脂材料だけでも50~60種類程度は、発生し得る故障のメカニズムが判明しています。樹脂材料に限らず、金属材料やゴムなどさまざまな材料・部品の故障のメカニズムに関する情報を集めます。

 後述しますが、社内に蓄積があればそれらの情報を閲覧しやすいように仕立てればいいのです。社内に蓄積がなくても、インターネットによって世界中のデータベースを利用できる現在は、それほど難しい作業ではありません。まずは図書館で資料を漁り、金属材料や樹脂材料などの故障のメカニズムを概観し、そこで拾い上げたキーワードで検索してください。写真や図版を含めた故障事例を見つけられます。

 もう1つ重要なのが設計ノウハウです。設計時に注意すべき事項はいくらでもあります。故障のメカニズムを把握できても設計ノウハウがなければ、どのような対策を打てばいいのか分かりません。

 社内に「設計基準」のような形でまとめている企業も多いはずです。設計基準以外にも、設計者はさまざまな設計ノウハウを持っています。ただし情報共有しているとは限らない。むしろ共有していない方が多いでしょう。設計者は今抱えている仕事をこなすのが精一杯で、緊急性が高いわけではない設計基準への情報提供などする余裕はありません。こうした設計者の引き出しに入っている設計ノウハウを集めるのも重要です。こうしてまとめたデータ集を「FMEA辞書」と呼んでいます。