開発・設計から生産まで、高品質のものづくりを実現するには品質管理手法の習得・活用が欠かせない。だが、「何をどのように学べばよいかを知らない技術者が多い」と指摘するのが、デンソーの開発・設計者出身で、トヨタグループの品質スペシャリスト「SQCアドバイザ」も務めた皆川一二氏だ。同氏に、自身の経験を踏まえながら品質手法の学び方を聞いた。(聞き手は近岡 裕)
技術者として開発・設計に携わっていた頃の品質に関する失敗談を教えてください。

皆川氏:忘れられないのは、スズキ現会長の鈴木修氏に叱られたことです。当時の鈴木氏の役職は正確には覚えていませんが、専務よりは上位だったはずです。当時の私はデンソーの開発・設計部門でグループリーダーを務めていました。
その時はスズキ向けに納入するある部品の次年度の品質計画の相談で同社を訪問していました。その席に鈴木氏がいたのです。
私はそこで「来年度の品質目標は0.○○ppmにしたいのですが、よろしいでしょうか」と話しました。良品率を数値で示して顧客であるスズキの了解を得ようとしたのです。すると次の瞬間、「バン」と大きな音がしました。驚いて見ると、鈴木氏が机を叩き、真っ赤な顔で怒っているのです。
「君は何を考えているんだ!1つの製品の品質不具合でも、お客様にとっては100%なんだ。何ppmといった考えでは困る」
鈴木会長のあまりの剣幕(けんまく)に、私は直立不動で「はい、分かりました」と言うのが精いっぱいでした。
自動車部品は工業製品ですから、良品率を100%にはできません。ppmオーダーでの管理自体は間違いではないですよね。
皆川氏:最終的にはそうです。しかし、鈴木氏は「品質に向き合う考え方が間違っている」と言いたかったのだと思います。最初から何ppmを許容するという考え方ではだめ。品質不具合は基本的にゼロにすべく取り組み、結果的に何ppmに抑えたという考えを取るべきだということです。もしかしたら私の発言が、「不良があっても仕方がない」という口ぶりに聞こえたのかもしれません。いずれにせよ、この時の鈴木氏の言葉で自分自身の品質ヘの向き合い方に依然として甘さがあったと思い知らされました。