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企業内で設計をマネジメントする

 どんな製品でも、製品の品質を保証するのは設計者個人ではなく、その製品を製造して納品する企業です。だからこそ、その企業内で設計をマネジメントするために設計書やQFDが必要なのです。設計書作成やQFD実施の過程を省略して設計を開始するのは、設計品質を企業としてマネジメントせず、設計を設計者に丸投げしているのと同じです。

具体的にはどのようなケースが考えられるのでしょうか。

中山氏:例えば、自動車部品の搬送装置を設計する企業のケースを想定しましょう。顧客の要求仕様書で、1時間当たりに搬送できる部品数が100個と指定されていたとします。要求仕様書に示されているのはその数値だけです。この仕様を実現するのに、部品を搬送する方式や、その方式を採用する考え方などは通常、示されていません。

 アームを使うのか、それともアームを使わずにレールで動かすのか。アームを使うとしてアームの動き方をどうするのか。求められた仕様を実現するには複数の方式を選択できますし、選択に至る考え方もさまざまです。ここでの(顧客も含めた)概要検討の結果が、顧客の要求を直接受けた営業部門と設計部門の橋渡しになります。顧客と営業部門、設計部門が設計に必要なインプットの情報をすり合わせる、非常に重要なプロセスです。

 ところが日本の製造業では多くの企業が、このプロセスを設計者に委ねているのが実情です。顧客の要求仕様書などを基に、設計者個人が図面を作成してしまうのです。あまりにナンセンスです。どんな製品でも、購買層を想定し、その購買層にどのような機能が求められ、その機能を実現するための構造や方式を決めずに設計に入るケースは考えられません。

なぜその設計になったのかを検討・記録する

設計書を作成せず、QFDを実施しないことで、具体的にどのようなデメリットが生じるのでしょう。

中山氏:設計過程の記録が残らないので、企業内に設計ノウハウが蓄積、承継されないのがまず1点。そのため過去の設計を流用できず、設計工数が増えるのが2点目。設計過程が記録されておらず設計者の頭の中にしかないわけですから、製造過程で問題が発生した場合は設計者が工場に出向いて調整しなくてはなりません。つまり設計者の手離れが悪い。主にこの3点でしょう。

 意外に思う人がいるかもしれませんが、設計書を作成せず、QFDを実施しなければ中長期的には設計工数が増えるのです。企業としては損失が生じるはずです。設計書が残っていなければ、設計過程が分かりません。過去の設計をほとんど流用できずにイチから設計し直さなければならない。設計の省力化を図れないのです。

 時々、「日本の設計者は生産性が低い」と主張する人がいますが、その理由は日本人の設計者の能力が低いわけではなく、設計書などを作成して残さないという非合理的なワークフローにあると考えています。

 機械設計者の数はどんどん減っています。ただでさえ組織の設計力が弱くなっているのに、有能な設計者が引退し、その技術を引き継ぐ設計者が育たなければ、過去に製造した製品を造れなくなります。造るためには、膨大な手間やコストがかかってしまい、利益率も下がるでしょう。

そういった問題の解決策が、設計書の作成とQFDの実施なのですね。

中山氏:この2つを省略するメリットは全くないと思います。確かにQFDにはノウハウが必要です。しかし、基本は単純。縦軸に必要な機能を、横軸に品質特性を列挙して、機能に関連する品質特性の点数付けをして優先順位を決める。点数が高い機能は市場や顧客のニーズが高いと判断し、ニーズの高さに合わせて設計目標値を設定する。それだけです。

設計品質を保証するのに必須

 「設計過程が分からなくても、顧客の要求する性能を満たしていればいいではないか」という人もいるでしょう。しかし、そういった製品は一般的に、温度の急変や想定外の振動といった「外乱」に弱いと言われています。

 設計過程を社内などで共有していなければ、外乱を原因とするトラブルに対応するには、設計者が現地(工場)に出向くしかありません。どのような理屈で設計したのか、設計者しか分からないからです。逆に言えば、設計書とQFDの文書を残していれば、設計ノウハウを承継できてトラブルの未然防止への備えになるわけです。

 メリットとデメリットという言い方をしましたが、本来は企業が「設計品質をどのように保証するか」という根源的な問題に結びつくのです。品質データ偽装や検査不正などが相次ぎ、その保証体制が従来にも増して問われる現在、設計書の作成とQFDの実施は製造業にとって必須と言えるでしょう。

中山 聡史(なかやま・さとし)
A&Mコンサルト 取締役専務、経営コンサルタント
設計業務を中心にトヨタ流の改善や問題解決の考え方・方法を指導するコンサルタント。トヨタ自動車の元エンジニアで、同社ではエンジンを担当。設計から開発、品質管理、環境対応など幅広い業務に従事した。その後、A&Mコンサルトのコンサルタントに転身。製造業を中心に設計改善やトヨタ流問題解決の考え方のコンサルティングを展開している。多くのものづくり企業でモジュラー設計導入や設計業務改革、品質・製造改善、生産管理システムの構築などを支援している。「日経クロステック」にて人気コラム「トヨタ流 勝ち残る設計」を執筆。