モジュール設計は、設計者だけではできない。営業や開発担当者も交えて検討すべきだ─。「日経クロステック ラーニング」の「多様な顧客要求を満足するモジュール設計手法」の講師であるITIDマネージャーの高野昌也氏はこう指摘する。モジュール設計を成功させるために何が重要なのか。そのポイントを同氏に聞いた。(聞き手は高市清治)
「モジュール設計」とは何ですか。
高野氏:互換性の高い部品をあらかじめ設計しておき、その部品を組み合わせて製品を設計できるようにする設計手法です。部品の種類を抑えてコストを削減しながら、市場のニーズの変化に合わせて速やかに設計変更できるのがメリットです。
市場の競争に勝つためには、顧客や市場のニーズに応えなくてはなりません。顧客の細かい要望や市場の急なニーズの変化に対応するには、製品の設計変更が必要になります。しかし、そのたびに一から設計を始めるのは非効率です。設計の時間も手間もかかりますし、保守部品もどんどん増えるので高コスト化する。それでは設計を変更できても市場の競争には勝てません。
そこで、製品をいくつかの主な部品の組み合わせで設計できるようにして、設計の手間や時間を省力化し、コストの削減を図り、同時にニーズの変化に対応した設計変更を実現するのがモジュール設計です。
モジュールの組み合わせで対応できない部分は設計が必要ですし、後述するようにモジュール化やモジュールの組み合わせのルールが必要になるなど、モジュール設計ならではの難しさもあります。それでも設計を省力化し、従来と同じリソースを使って短期間かつ低コストで、品質を落とさずに設計できるメリットは非常に大きい。だからこそ今、注目されているのです。
作り手の視点にとどまる流用設計や標準化
「流用設計」や「標準化」と似ていますね。
高野氏:よく誤解されますが、モジュール設計と流用設計や標準化は異なる考え方です。
流用設計は、類似する製品を見つけ出して、変更すべき差分を埋める設計手法です。うまい具合に類似製品を見つけられれば素早く設計でき、効率的です。ただし、モジュール設計より不確実性が高い点が難点です。
まず最適な類似製品を見つけられるかが分かりません。特殊な製品なら類似製品があるとは限りませんし、逆に類似製品がたくさんあって、変更すべき設計のポイントが増えれば増えるほど、どの製品を流用するのが最適なのか判別するのが難しくなります。流用する製品とどの程度類似しているかで、製造コストが大きく変わるのも流用設計のデメリットです。何よりその類似製品の設計者でないと分からない部分が多いと、設計変更する際の影響を読み切れず、トラブルになりやすい点が問題です。
その点、モジュール設計は1つひとつのモジュール単位で情報を残して再利用するので、設計の属人性が低く、確実かつ速やかに設計変更できるのが流用設計との違いです。
標準化とも異なるのですか。
高野氏:標準化は一般に部品や設計のばらつきを抑えるために実施するものです。できるだけ同じ部品、同じ設計、同じ作業手順にして品質の安定を図るわけです。そこでは造る側の視点で検討されています。ここがモジュール設計との大きな違いです。
モジュール設計は、開発と生産効率の向上や品質の確保、コスト削減と同時に、顧客や市場のニーズに対応するための手法です。標準化や共通化があくまで「同じもの・同じ設計」を使うのにとどまるのに対して、モジュール設計は製品の設計を変え、ニーズに応えるバリエーションを生み出すためにあります。