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国峯 尚樹 氏
国峯 尚樹 氏
サーマルデザインラボ 代表取締役

「製品の機能と性能を左右するようになった熱設計の重要性は、今後さらに高まる」。サーマルデザインラボ代表取締役の国峯尚樹氏はこう強調する。なぜ重要性が高まっているのか。「日経クロステック ラーニング」で「最新機器に学ぶ熱対策の実践」の講師を務める同氏に、熱設計の現状と傾向、設計に当たっての基本的な考え方を聞いた。(聞き手は高市清治)

熱設計の重要性は高まっているのでしょうか。

国峯氏:熱設計に携わって45年になりますが、熱設計の需要性は高まる一方だと実感しています。というのも製品の高機能化や高性能化が進んでいるからです。

 エネルギーを100%は変換できないので、音も光も損失分は全部、最後は熱になります。高機能にしたり、高性能にしたり、新たに何かをしようとすると単位時間当たりのエネルギーの損失が増えるので絶対に発熱します。この余った熱をどう処理するか。放置すればその熱が原因で誤動作したり、動作しなくなったりします。最悪の場合は故障しますから、熱設計を誤るわけにはいきません。

製品が故障しないためにも熱設計が重要なのですね。

国峯氏:故障を回避するのは熱設計の目的の一部です。以前は故障回避が唯一の目的だったのですが、最近はむしろ機能や性能を向上させる目的も重要になっています。

 身近なところでは、スマートフォン(スマホ)で動画を撮影できる時間が挙げられます。動画を撮影すると、処理に関わるSoC(System on Chip)などの電子部品が発熱します。解像度が高くなればなるほど、撮影時間が長くなればなるほど発熱します。熱設計上、通常は許容できる温度を超えると自動的に撮影を止めます。長時間撮影していて、撮影停止のボタンを押さなくても停止することがあります。原因は熱です。この時、撮影可能時間を左右するのが放熱構造などの熱設計なのです。

 電気自動車(EV)では、バッテリーの発熱を抑えないと航続距離が短くなり、寿命も短くなります。EVの場合は商品性を高める生命線と言ってもいいでしょう。

 特に最近は部品の小型化が著しい。以前は集積回路も今ほど集積していなかったし、今ほど小型ではありませんでした。しかし、「μm」から「nm」へと時代は変わりました。特にCMOS半導体の微細化が進み、スイッチングの際に電気的に遮断するゲートが小さすぎて、どうしても電流が漏れてしまうのです。

 この電流の漏れは、温度が高いと増える性質があります。電流が漏れると温度が高くなる。温度が高くなると電流が漏れやすくなる。このスパイラルに入ると温度の上昇を抑えられなくなり、熱暴走に至るわけです。部品の性能を落としたり、故障に至らしめたりする熱暴走のリスクを回避する、これが高集積半導体における熱設計の最大の目的です。