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欧州のEV推進の流れは無視していい

しかし、全世界でEV化を推進する動きが加速しています。

藤村氏:EVが売れているのは、EVがCO2削減に最適だからではありません。各国政府の補助金や税制措置など各種の救済措置によって売れているのです。

 欧州における2021年の販売台数の内訳をみると、EVの103万台に対し、PHEVは102万台とPHEVがEVの販売台数を追い越す勢いです。補助金のつかないHEVが223万台と、購入すると補助金を9000ユーロも受け取れるEVの2倍以上売れているのです。

 ここまで官民一体で一気にEV推進に踏み出し、販売拡大にまい進したのは、2015年に発覚したドイツVolks Wagen(フォルクスワーゲン、VW)の排ガス不正(ディーゼルゲート)に端を発します。ドイツとフランス、イギリスでは、ディーゼル車の販売が大きく落ち込みました。本来はクリーンというイメージのディーゼル車が、実はクリーンではなかったという顧客イメージを払拭できなかったからです。

 欧州メーカーは当初、クリーンディーゼルを主体に、2021年からのCO2規制強化に対応する戦略でした。ところが、ディーゼル車開発で墓穴を掘り、日本メーカーに対抗できるHEVも作れない。その結果EVを主力とする戦略しか取れなくなったのです。

欧州でも始まる「EV一辺倒」の見直し

 しかし、欧州の政府も自動車メーカーも決して一枚岩ではありません。

 例えば、昨年(2021年)11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、議長国である英国が「先進国市場では2035年までに、グローバルには2040年までに、乗用車とバンの新車をゼロエミッション車にする」という共同声明を発表しました。米中日仏独政府および主要自動車メーカーであるトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、VW、ドイツBMW、フランスRenault(ルノー)、欧州Stellantis(ステランティス)などは、この声明には合意していません。要するに、ランキングトップのメーカーは、EVだけに傾注する脱炭素政策に懐疑的で、このような提案に慎重なのです。

 欧州委員会が進める政策はしばらく静観しておけばいいでしょう。一喜一憂する必要も、彼らに流される必要もありません。彼らの政策はいずれ破綻します。

 何より重要なのは顧客のニーズだという点を忘れてはいけません。自動車メーカーは多様な顧客のニーズに対応すべきです。また、国によってエネルギー政策も多様です。先進国の政府や産業界は、さまざまな条件に配慮すべき責任があります。2030~35年に向けて、いかなる表明をしても、選択権は顧客、あるいは消費者にあると認識しなければいけません。EVの普及を推進するだけでは、カーボンニュートラルと顧客ニーズの両方を満たすことはできないのです。「顧客・消費者ファースト」でない政府や自動車メーカーは、いずれ信頼を失い、破綻するのではないでしょうか。

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藤村 俊夫(ふじむら・としお)
Touson 自動車戦略研究所 代表、自動車・環境技術戦略アナリスト
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)。1980年にトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。入社後31年間、本社技術部にてエンジンの設計開発に従事し、エンジンの機能部品設計(噴射システム、触媒システムなど)、制御技術開発およびエンジンの各種性能改良を手掛けた。2011年に愛知工業大学に転出し、工学部機械学科教授に就任。熱力学、機械設計工学、自動車工学概論などの講義を担当。2018年4月より同大学工学部客員教授となり、同時にTouson自動車戦略研究所を立ち上げ、自動車関連企業の顧問をはじめ、コンサルティングなどを手掛ける。