隠れた実力を持つ中小のものづくり企業の生産現場を訪れ、強さの裏にあるトップの考えや現場での取り組みを探る本連載。第3回は、精密鋳造の技術を軸に他との差異化を追い求める金属部品メーカー、キャステム(本社広島県福山市)を訪ねた。
■ 企業概要
創業 | 1970年2月 |
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従業員数 | 266人 |
事業内容 | ロストワックス精密鋳造部品・セラミック射出焼結部品などの製造 |
資本金 | 7996万円 |
「2019年の新入社員は21人。200人が応募してきたので求人倍率は10倍だ。優秀な順に選んだら新入社員15人は女性となった」。キャステム代表取締役社長の戸田拓夫氏は、自社の人員採用についてこう語る(図1)。
同社は精密鋳造を得意とする金属部品メーカーだ。ロストワックスやメタルインジェクション(MIM)の優れた技術に根差したものづくりで独自の地位を確立しており、その製品は産業用機器や医療機器、半導体装置など幅広い分野で使われている。拠点も国内にとどまらず、東南アジアや米国、南米などグローバルに展開している。
ロビンマスクからボクサーの拳まで
しかし、MIMなどの素形材加工技術を持つだけで倍率10倍もの応募があるわけではない。何がそこまで人を集めるのか。
同社の強さの鍵は、同社が企業としての行動原理を「ユニークネス」に据えている点だ。とにかく“変な物”を造っている。同社が独自に運営するネット通販サイト「アイアン ファクトリー」や、店舗型ギャラリー「アイアンカフェ」には、他で見たことのない金属加工品が並ぶ。
例えば、鏡面仕上げが美しいキン肉マンの「ロビンマスク」。地元広島カープの優勝を記念するグッズ「赤ヘル呑み」。フィリピンのボクシングの英雄であるマニー・パッキャオ本人から型取りして血管・手のシワ・毛穴までも金属で忠実に再現した「鉄拳」。果物や草花、昆虫といった「リアル金属オブジェ」など。まず同社しか造っていなさそうな代物ばかりだ(図2)。
本社の一角にあるホワイトボードには、カラフルに彩られたイラストでユニークな製品のアイデアがびっしりと書き込まれている(図3)。「社員からアイデアがどんどん出てくるし、面白いと思ったものは全部造る」と、戸田氏には迷いがない。