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 2019年4月に開催された欧州最大の産業展示会「HANNOVER MESSE 2019」(ハノーバーメッセ)。今年は第5世代移動通信システム(5G)関連の特設展示スペースが設けられ、多くの来場者の耳目を集めた*1

*1 詳細は日経 xTECHの記事「ハノーバーでも主役は『5G』、クルマやロボットはキラーアプリになるのか」(https://nkbp.jp/2BFS14F)などを参照のこと。

(出所:Deutsche Messe)
(出所:Deutsche Messe)
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 国内の多くの製造業向け展示会でも「5G」はキーワードになりつつあり、国内製造業各社の5G活用に向けた動きも活発になってきた。例えばオムロンは、自社工場で5G活用の実証試験に挑む。同社執行役員でインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー技術開発本部本部長の福井信二氏は「5Gでファクトリーオートメーション(FA)はもっと進化・拡張する」と5Gへの大きな期待と意気込みをのぞかせる。

速さ10倍、遅延は1/10

 5Gは、簡単に言えば有線通信並みの性能を実現できる無線通信の規格である(図1)。しかも、工場など産業用途を強く意識した技術仕様となっており、IoT(Internet of Things)による生産ラインの詳細なデータ収集や、生産設備のリアルタイム制御などが実現できると期待されている(別掲記事参照)。

図1 5Gの特徴と従来の通信技術との違い
図1 5Gの特徴と従来の通信技術との違い
20Gbpsの高速・大容量、100万デバイス/km2の多数同時接続、1m秒の高信頼・低遅延を大きな特徴とする。従来の4G/LTEに比べて10倍以上速く安定性に優れるとともに、Wi-Fiと違って一定時間でのレスポンスを保証できる確実性がある。なおかつ無線ネットワークならではのレイアウトの柔軟性の高さを享受できる。(日経ものづくりが作成)
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 従来、工場内のネットワークは有線が中心だった。確かに有線なら安定した高速通信が可能だが、多数の生産設備をつなぐための配線工事にはコストがかかる上、設備の追加や変更などがあると配線を敷設しなおさなくてはならず、柔軟なレイアウト変更に対応しにくい。

 一方、無線通信であればレイアウト変更の柔軟性は確保できる。ただし、現行の移動通信規格であるLTE(Long Term Evolution)/第4世代移動通信システム(4G)は通信速度が限られ、画像や映像といった大容量データを扱いにくい。無線LAN(Wi-Fi)は、複数の接続デバイスが早い者勝ちで帯域を取り合うため、一定時間内での動作を保証できず、生産設備の制御などには向かない。

 そこで注目されるのが性能を高めた移動通信規格である5Gだ。具体的には、[1]最大20Gbps(ビット/秒)の「高速・大容量」、 [2]1km四方当たり100万台のデバイスと同時に通信可能な「多数同時接続」[3]送信してから受信までにかかる時間差(遅延)が1m秒という高信頼・低遅延といった性能を実現できるとされる。LTE/4Gに比べて圧倒的な通信速度と、同10倍の多数同時接続、4Gの1/10の低遅延という性能を誇るのだ。これを生かせば、インデックスに描いたような工場を実現できる。

 日本では、5Gの公衆サービス提供が2020年春に始まる予定だ*2。通信事業者でなくても限られたエリアで5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」の活用も産業用途を後押しすると期待がかかる(詳細はPart2参照)。目の前に迫った5G実用化の時代に向け、適用場所である工場を持つ製造業だけでなく通信事業者、設備メーカー、研究機関などを交えた5Gの実証試験が次々と立ち上がっている()。

*2 米国および韓国、欧州の一部では2019年春から商用サービスが始まっており、中国でも2019年内には開始の予定。日本では2020年に本格的なサービスが始まる予定。

表 工場を対象とした主な5Gの実証試験
(日経ものづくりが作成)
企業名 実施場所 実施時期 概要
ATR/デンソー/KDDI/ 九州工業大学 九州工業大学/ デンソー九州 2019年1~2月 産業用ロボット制御の完全無線化の可能性検証 生産設備のレイアウト変更の検証
オムロン/ノキア/ NTTドコモ オムロン・草津工場 2019年度~ 電波測定と伝送実験 生産設備の接続による生産性向上の検証
京セラ 2020年度中
DMG森精機 欧州工場/伊賀事業所 2019年秋~2020年度 生産設備の稼働監視
ファナック/日立製作所/ NTTドコモ ファナック・本社工場 日立・大みか工場 2019年~2021年 電波の伝搬測定や伝送実験 生産設備の無線制御の検証 遠隔保守作業支援の検証 など
富士通 小山工場 2020年度 生産設備のIoT化 作業者の動作分析への適用検証