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 日本の自動車メーカーが量産車の吸気ダクトに採用(図1)─ ─。機械的な締結要素を使わずに異なる材料を強固にくっつける異種材料接合(異材接合)技術が、実用化に向けて加速し始めた。日本の自動車メーカーによる量産品への採用は、異種材料接合が1つの大きなハードルを越えたことを示す。

図1 日本車に搭載された吸気ダクト
図1 日本車に搭載された吸気ダクト
東洋紡が開発した異種材料接合技術が採用された。品質やコストの条件が特に厳しい日本の自動車メーカーが、異種材料接合技術を量産に使った“エポックメーキング”な事例。(写真:日経 xTECH)
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 吸気ダクトはエンジンの周辺部品。金属とゴムを、種類の異なる硬いプラスチック製部品と軟らかいプラスチック製部品で置き換え、両部品の接合に異種材料接合を採用した。これによって得られる軽量化とコスト削減を、この自動車メーカーは評価したという。

 日本の自動車メーカーによる採用は異種材料接合の普及に弾みをつけそうだ。というのも、締結や溶接といった従来技術に比べて、“新参者”の異種材料接合の採用に日本の自動車メーカーはこれまで極めて慎重だったからだ。

 もともと自動車部品は品質とコストの条件が特に厳しく、採用のハードルは高い。異種材料接合技術を開発する企業から「石橋をたたいても渡らない」という嘆きの声が上がるほどだった。日本の自動車メーカーを納得させた事実は大きい。

 この吸気ダクトに採用された異種材料接合技術を開発した東洋紡は、「工数はかかったが、信頼に足る試験データを徹底的に提供して納得してもらった」と語る。採用の判断材料として試験データを受け入れる姿勢を、日本の自動車メーカーが見せた事実に、関係者は驚く。

 ドイツ・ダイムラー(Daimler)は2013年に発表した3代目「メルセデス・ベンツAクラス」に、ドイツ・エボニック(Evonik)の異種材料接合技術を採用した例がある。ポリアミド(PA)とアルミニウム(Al)合金を接合してクロスカービーム(ステアリングメンバー)を造ったのだ。だが、日本の自動車メーカーがこれに続くことはなかった1)。異種材料接合の開発メーカーが試験データを提供しても、日本の自動車メーカーが見向きもしない時代が続いた。

認知度の向上でビジネスチャンス拡大

 異種材料接合の技術は2000年代に日本で立ち上がった。異なる材料同士をくっつける技術の面白さは技術者の興味を引いた。しかし、実用化の可否は不透明だった。異種材料接合のパイオニアの1社である大成プラス(本社東京)は、新たな接合技術の可能性をユーザーに実感してもらうために、Al合金とプラスチックを接合したサンプルのプラスチック部分をハンマーで思い切りたたいても倒せないというデモンストレーションを、国内各所で実施した。

 転機は、接合原理として「アンカー効果」が発見されたこと。接合界面を微細に観察したところ、金属の表面に生じた微細な穴に射出成形したプラスチックが入り込み、「いかり」のように食い込んで抜けなくなる現象が見つかったのだ。この物理的な結合が、電子顕微鏡写真で「見える化」されると、いかりのように固定されるという分かりやすさが、技術者の認知度を大きく高めた。

 結果、2005年に開発されたソニーのプロジェクターを皮切りに、ノートパソコンや携帯電話などのデジタル機器を中心として異種材料接合の採用が進んでいった(図2)。金属製のきょう体の内部に、プラスチックでリブやボスを設ける用途が多い。デジタル機器などでは現在、汎用的な接合技術の1つと言ってよいほどだ。

図2 デジタル機器での異種材料接合の採用例
図2 デジタル機器での異種材料接合の採用例
金属とプラスチックをアンカー効果でくっつけた大成プラスの実用化例。きょう体にプラスチック部品(リブやボス)をくっつける用途で多く使用されている。(写真:日経 xTECH)
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 生産量の多いデジタル機器を中心に実用例が増えた結果、異種材料接合は技術者の信頼を得た。異種材料接合を開発するメーカーはユーザーのニーズをつかみ、着々と実験データやノウハウを積み上げてきた。