鋼をはじめとする重い金属で構成された部品や材料を、より軽い材料に置き換えて製品全体の質量の軽減を図る。そのために、異なる種類の材料同士を強固にくっつけたい─。軽量化は、ユーザーが異種材料接合に期待する最も大きなニーズだ。特に、燃費規制や二酸化炭素排出規制が厳しい自動車分野では、エンジンの負荷を下げるために車体の軽量化を図っており、異種材料接合による軽量化への期待は大きい。
オール樹脂製の吸気ダクト
図1は、エンジンの周辺部品である吸気ダクト。強度と剛性が求められる硬い部品と、ある程度自由に曲げられる軟らかい部品を異種材料接合技術でつないで接合する。東洋紡が開発した異種材料接合技術を使い、ある自動車部品メーカーが量産している。
従来は硬い部品にアルミニウム(Al)合金を、軟らかい部分にゴムを使っていた。これに対し、新しい吸気ダクトは硬い部品をポリブチレンテレフタレート(PBT)に、軟らかい部品をポリエステル系熱可塑性エラストマー(ポリエステルエラストマー:TPC)に置き換えた(図2)。いわゆる「オールプラスチック化」によって軽くしたわけだ。具体的な数値は不明だが、10%以上の軽量化を実現したとみられる。
硬い部品は強度と剛性に加えて耐熱性が求められる。そこで、融点が225℃で150~180℃の高温に耐えるPBTを選択した。耐熱性プラスチックとしてよく使われるポリアミド(PA)6やPA66とは異なり、吸水しにくいので寸法が安定する利点もある。一方、軟らかい部品には、重合ノウハウを生かして150℃までの熱に耐えるTPCを使用している。
吸気ダクトの製造工程はシンプルだ。硬いPBT製部品と軟らかいTPC製部品をそれぞれ射出成形で加工した後、溶着工程で2つの部品をくっつけるだけ。溶着工程では、両部品とも端面(接合面)だけを融点以上に加熱して溶かし、圧力を加えて押し付ける。後は自然に任せて冷却すれば部品同士が強く結合し、吸気ダクトが出来上がる。
相互分子拡散で化学的に結合
単なる溶着では新しい吸気ダクトを造れない。金属の溶接と同じく、プラスチックの溶着は同じ種類同士でなければ強力にくっつかないからだ。PBTとTPCは同じポリエステル系に属するが、種類としては別物。PBT製部品とTPC製部品を熱で溶かして押し付ければ、一見くっついたように見える。だが、これは接合面で表面的にプラスチック同士が絡むアンカー効果などで微弱にくっついているだけだ。吸気ダクトを流れる高温の圧縮空気の熱と圧力を受けると、簡単に両部品は剥がれてしまう。
そこで、東洋紡はPBTとTPCの両方に添加剤を入れ、2つのプラスチックが分子レベルで混ざり合うように改質した。これにより、溶着工程でPBT製部品とTPC製部品の端面同士を加熱して押し付けると、両プラスチックの分子鎖が互いに絡み合う相互分子拡散が起きる。この化学的な結合が、硬いPBT製部品と軟らかいTPC製部品が強固にくっつく異種材料接合の原理だ(図3)。
オールプラスチック化による軽量化に加えて、Al合金とゴムで出来た従来の吸気ダクトに比べて製造コストは下がったとみられる。厳しいコスト競争力を求める国内の自動車メーカーに採用されたからだ。また、製造法は射出成形と溶着の組み合わせだけではなく、部品の形状によっては2色成形もできる。
なお、東洋紡は材料メーカーなので、添加剤を入れたPBTおよびTPCのペレットをユーザーに提供する。これらを使い、異種材料接合を利用した製品を造るのはユーザーだ。