金属表面の酸化膜や汚れを除いて内部をむき出しにした新生面同士を接近させると、原子間の結合が生じる。この現象は以前から知られているが、最近になって接合技術として利用され始めた。界面の接合層がない、もしくは非常に薄いので、接合部をまたぐ高い導電性や熱伝導性を保てる長所がある。
超音波で導通部の異種金属を接合
電気・電子製品の導通部分を対象とした異種材料接合技術「超音波複合振動接合」も、金属の新生面同士を直接、圧着させるそうした手法の1つ。開発したのはLINK-US(リンクァス、本社横浜市)だ。
アルミニウム(Al)合金や銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、鋼、ステンレス鋼など、導通部分によく使われる金属を対象に、同種の金属同士はもちろん、異種金属同士を接合できる(図1)*1。
接合面は直径0.3~20mm程度と、小さい部材を得意とする。具体的には、円筒型やラミネート型のリチウムイオン2次電池の集電箔とタブ(電極)や、組み電池とバスバー(電極)、パワー半導体のバスバーと回路基板、フレキシブルプリント基板の導線と基板、ハーネスやコネクターの導線と基板などに使える。
実用性は高い。2014年8月に設立したベンチャー企業の同社は既に、電池や車載、半導体の大手日本メーカーを顧客に持つ。現時点で異種材料接合での採用例はないが、同種材料の接合では既に2社が超音波複合振動接合を量産工程に採用している。1つは円筒型リチウムイオン2次電池の安全弁の接合。もう1つは缶底と電極の接合だ*2。
直線とねじりを合わせて楕円振動に
超音波複合振動接合のポイントは、楕円形状の振動(楕円複合振動)を作る点だ。
通常の超音波振動接合で使われるのは、逆圧電効果による変形、すなわち圧電素子(超音波振動子)に電圧を加えて発生する機械的歪(ひず)みを利用した直線振動だ。LINK-USの超音波複合振動接合でも圧電素子を利用するが、直線振動をそのまま使うわけではない。
図2が超音波複合振動装置の外観。図3がその構造だ。超音波複合振動装置は、超音波振動子と円筒型のホーン、先端チップから成る。ホーンと先端チップは共にステンレス鋼製だ。
通常は、超音波振動子につながったホーンが直線振動をそのまま先端チップに伝える。ところが超音波複合振動装置の場合は、ホーンの前方(先端チップ側)にスリットが入っている。具体的には、0.5mmの幅のスリットが12本、ホーンの円筒に対して斜め45°に刻まれている。
このスリットが一般的な超音波振動接合との違いを生み出す。ホーンからの直線運動を受けてねじり振動に変化するからだ。すると、先端チップは、ホーンから伝わる直線振動と、スリットが作るねじり振動を合成した楕円複合振動になる。
楕円複合振動は直線振動とは異なり、振動の軌跡に折り返し点がない。そのため、方向性のない均一で安定した強度を得られ、接合強度が母材並みになる。スパッタ(飛散物)の発生が少ないのもメリットだ。特にスパッタの少なさが、異物混入を嫌う電気・電子分野から溶接に代わる接合技術として期待されているようだ。