全2851文字
PR

 自動車などでのマルチマテリアル化の実用は、日本よりも欧州の方が進んでいる。必然的に異種材料の接合技術の利用も進んでいたが、リベットのような機械的な締結が主流だ。これまでは、アンカー効果や化学的結合による「直接接合技術」はもっぱら日本企業の取り組みとみられていた。しかし、欧州でも日本と同様に、機械的な締結によらない直接接合技術への取り組みが出てきた。

 プラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」(2019年10月16~23日、メッセ・デュッセルドルフ)では、ドイツで開発が進むプラスチックと金属の直接接合技術の出展があった。

 特に目立った技術が2つあった。1つはフラウンホーファー(Fraunhofer)研究機構レーザー技術研究所(ILT)を含む10社が参加したプロジェクト「FlexHyJoin」による鋼板とプラスチックの接合だ(図1)。イタリア・フィアットの小型車「パンダ」向けのルーフ補強材を製作した。

図1 フラウンホーファーILT(レーザー技術研究所)が出展したサンプル
[画像のクリックで拡大表示]
図1 フラウンホーファーILT(レーザー技術研究所)が出展したサンプル
[画像のクリックで拡大表示]
図1 フラウンホーファーILT(レーザー技術研究所)が出展したサンプル
金属-プラスチック直接接合に関する展示。左が腐食試験用の試験片で、接合部に影響がなかったという。右はフランホーファーを含めて10社が参加したプロジェクト「FlexHyJoin」で作製した、自動車の屋根用ビーム材の一部。(写真:日経 xTECH)

 もう1つはドイツの射出成形機大手のアーブルグ(Arburg)と表面処理のプラズマトリート(Plasmatreat)が共同で出展した、コネクターを想定した成形技術だ。完成品は電極とコネクター本体のプラスチックが密着しており、空気や水が漏れない。

 両社とも、要素技術の開発だけでなく、生産システムの成立性を併せて検討している。特にアーブルグとプラズマトリートは、2つのブースをまたがって素材から製品完成までを実演して見せた。

10社が参画、「FlexHyJoin」プロジェクト

 FlexHyJoinで製作した補強材は、プラスチックを提供した材料メーカーのドイツ・ランクセス(LANXESS)が自社ブースで展示した(図2)。ルーフの横幅に相当する長さの細長いプラスチック部品に対して、両端と中央に取り付け用の鋼板(ブラケット)を接合した。プラスチックはガラス繊維入りのポリアミド(PA6、商品名Tepex Dynalite)、鋼板は欧州規格のDC04。レーザーを照射して細かい凹凸を設けた鋼板を、プラスチック部品の所定位置に置いて熱を加え、鋼板の凹凸にプラスチックを流し込んで接合する。加熱する際の熱源は、中央ブラケットは誘導加熱、両端のブラケットはレーザーだ。引っ張り強さは15MPa以上になるとしている。

図2 ドイツ・ランクセス(LANXESS)が展示した自動車の屋根の補強材
図2 ドイツ・ランクセス(LANXESS)が展示した自動車の屋根の補強材
細長いプラスチック部品(ガラス繊維入りのポリアミド)の両端と中央に取り付け用の鋼板(ブラケット)を接合してある。〔写真:Mari Kusakari (草刈麻里)〕
[画像のクリックで拡大表示]

 プロジェクトでは生産自動化システムも開発している。展示会場での実演はなかったが、フラウンホーファーICTがWebで動画を公開している*1。レーザー処理装置や加熱装置、検査装置と一連の装置を備え、その間のワーク移送を多関節ロボットが担う。材料受け渡し口に成形済みの鋼板とプラスチック部品をセットすると、あとは自動で動作して検査済みの完成品を得られる。加熱装置とサーモグラフィーのカメラで接合部を検査し、接合に欠陥があれば画像に現れる。量産への適用を目指し、自動化システムによって品質の確保と生産コストの低減を図った。

*1 FlexHyJoinプロジェクトのWebサイトはhttps://www.flexhyjoin.eu/。

 FlexHyJoinは、EU(欧州連合)の開発プロジェクトとして実施したプロジェクト。イタリア・フィアット中央研究所(Centro Ricerche Fiat)や、レーザー樹脂溶着装置のスイス・ライスター(Leister)などの他、ドイツ、スペインからも企業が参加している。