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 「パラリンピックをきっかけに、義足ユーザーの全てが“走れる”と思える世の中になってほしい」。Xiborg(本社東京)代表取締役社長の遠藤謙氏は、競技用義足を開発する目的についてこう語る。同社が2014年に開発したトップアスリート向けの競技用義足「Xiborg Genesis」は、2016年9月のリオデジャネイロ・パラリンピック400mリレーで銅メダルを獲得した佐藤圭太選手が装着するなど、その存在を内外に知らしめた。

 2018年8月末に受注生産を開始した「Xiborg ν(ニュー)」は、東京パラリンピックを見据えて開発したXiborg Genesisの後継モデル*1。同社に所属する4人のトップアスリート走りを解析し、その結果に基づいて開発した競技用義足だ(図1)。

*1 Xiborg νの開発に当たっては、ソニーコンピュータサイエンス研究所と東京都立産業技術研究センターが共同研究先として加わった。また、東レと東レ・カーボンマジックも技術協力している。
図1 競技用義足の新モデル「Xiborg ν」
図1 競技用義足の新モデル「Xiborg ν」
Xiborg(本社東京)が2018年8月末に製品化し、受注生産を開始した。(出所:Xiborg)
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ねじりを抑制し重心を上げる

 Xiborgνでは炭素繊維強化樹脂(CFRP)製の板バネ(ブレード)の外見がXiborg Genesisとは大きく異なる(図2)。Xiborg Genesisの板バネは、ソケットへの取り付け部から下方向に伸びた後に後方向へ膨み、再度前方向へと延びるS字形のような形状になっている*2。これに対してXiborgνの板バネは、斜め後ろ方向に伸びた直線部が長くなり、前方向へと曲がる形状だ。この形が製品名に「ν」と付けた由来となっている。

図2 「Xiborg ν」と「Xiborg Genesis」の比較
図2 「Xiborg ν」と「Xiborg Genesis」の比較
横から見た形状を従来の「S字」に近い形から「ν」のように変更した。(写真:日経ものづくり)
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*2 Xiborg GenesisをS字形にした理由は、断端末の異なる多くのユーザーが使えるようにするため。

 Xiborg Genesisで板バネを大きく後方に湾曲させた理由は、接地面から伸びる板ばねが最初に屈曲するまでの長さを大きくする狙いがあった。それにより、板バネを大きくたわませるわけだ。その効果はもちろんあったが、その弊害として「ねじれやすい」という面があったという。推進力がねじりによって損なわれる可能性がある。

 加えて、Xiborg Genesisでは進行方向を向いた凸形状があるため、その内径側に引張応力、外径側に圧縮応力が生じる。基本的に走行中は接地面とソケットが近づくように板バネは変形するからだ。このような力の加わり方はCFRPの層間はく離が生じる可能性を高める。

 そこで、Xiborgνでは後ろ側に膨らませず、単純に1回だけ曲げる形とした。S字形の下側のカーブの頂点とソケットを直接結ぶような形状だ。これにより、板バネの全長が短くなり、たわみの性能を損なうことなくねじれにくくした。

 加えて、全長も短くなったので板バネの質量は小さくなり、義足としての重心が上昇。これにより、義足を装着した選手が軽く感じて扱いやすくなるという効果も生んでいる。

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