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 中小ものづくり企業の集積地としても知られる東京都大田区。ここでは今、パラリンピックで使われる競技用車いすの開発プロジェクトが2つ進んでいる。具体的には、車いすテニスと車いすバスケットボールで選手が使う車いすだ。いずれも車いすメーカーの松永製作所(本社岐阜県・養老町)との共同プロジェクトで、構成部品の一部を大田区の中小企業が開発するという形だ。

 今回紹介する3社は、いずれも過去のオリンピック・パラリンピックで使われる用具や装置の開発に挑んだ経験がある企業だ*1。中小企業にとってこうした用具への挑戦は、「守秘義務が厳しい通常の取引先と違って外部に話しやすい。オリンピック・パラリンピックで使われるかもしれない部品を造っていると社員のモチベーションも高まる」(エース代表取締役の西村修氏)。

*1 The MOT Companyは2018年平昌パラリンピックでアイスホッケー日本代表の1人にスティックを提供。カセダは山形大学と東京工業大学と共同で、車いすラグビーの日本代表チームが2016年リオデジャネイロ・パラリンピックで現地に持ち込んだウォーミングアップ用のローラー式トレーニングマシンを開発。エースは、2014年ソチ・オリンピックや2018年平昌オリンピックでの採用を目指した「下町ボブスレー」の開発プロジェクトに参画している。

材料の置き換えではなく形を変える

 レーシングカー向けの炭素繊維強化樹脂(CFRP)の成形技術を持つThe MOT Company(本社東京)は、車いすテニス用の競技用車いすのフレームの開発を手掛ける。アルミニウム合金をCFRPに置き換えればさらに軽量化できると考えた。

 そこでまず、パイプの組み合わせで構成されていたフレームをほぼそのままCFRPで造ってみた〔図1(a)〕。確かに軽量化は実現できたが「選手からは『全然使えない』と、思ったような評価は得られなかった」(同社CEOの濟藤友明氏)という。ヒアリングを進めてみると、ボールを打つためにコート上を移動しながらラケットを振った際、体重移動によってたわんだフレームの反発力が重要な役割を持っていることに気づいた。

(a)
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(b)
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図1 試作した車いすテニスの車いす
1号機では既存のフレームを構成していたパイプをアルミニウム合金から炭素繊維強化樹脂(CFRP)に置き換えた。銀色に塗装してある(a)。3号機では構造を根本的に見直し、板形状(プレート)を組み合わせて一体構造のフレームとしている(b)。(出所:大田区)

 そこでまるっきり設計を変えた。同社が得意としているレーシングカーのコックピットのように板状の部品を組み合わせた一体構造とすれば反発力を得られると予測したのだ。CFRPは剛性が高いため、パイプの組み合わせでは接合部の変形で力を吸収してしまい、パイプが変形しない。つまり反発力が生まれない。

 2018年秋には設計し直したCFRP製のフレームが完成(図2)。選手に使ってみてもらったところ好感触を得られた。CFRP製フレームは一体成形しているので、しなりや反発力の方向・大きさを、板厚などで剛性を調整して最適化できる。

図2 競技用車いすのCFRP製フレーム
図2 競技用車いすのCFRP製フレーム
従来のパイプを組み合わせた構造ではなく、板形状を基本とした一体構造としている。(出所:大田区)
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 一方、当初の狙いと反し最終的な重さはアルミ合金製の車いすとそれほど変わらない数値で落ち着いた。確かに軽い方が移動の加減速には有利だが、打球の強さを出すためには車いすにある程度の重さが必要だったと分かったからだ。「当初の目論見とは違った結果になったが、CFRPの別のメリットを出せた」(濟藤氏)。

 なお、CFRP製フレームの成形には、オートクレーブを使う乾式成形を使っている。型を使ってプリプレグを所定の形状に積層し、複数のパーツを一体化してからオートクレーブで成形する(図3)。「水分がよく抜けるので軽く、薄くなる」(同氏)。乾式成形できる企業は「全国でも30社くらい。都内では1社」(同氏)と少ないため、同社の特徴的な技術が生かされた形だ。

図3 CFRP製フレームの製造工程
図3 CFRP製フレームの製造工程
レーシングカーなどの成形を手掛けるThe MOT Company (本社東京)が協力した。オートクレーブを用いる乾式成形を適用している。(出所:大田区)
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