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 「SAR」(合成開口レーダー)の宇宙での利用は60年以上の歴史を持つ。基礎研究は1950年代のアメリカで始まった。宇宙に最初に打ち上げられたSARは、アポロ計画の最後を締めくくったアポロ17号(1972年12月打ち上げ)に搭載された月面レーダー 「ALSE (Apollo Lunar Sounder Experiment)」だ。電波が地下に浸透する性質を利用して、月の地下構造を調べるのに用いられた。

金星の地形図を作成した旧ソ連

 地球観測を目的とした世界初のSAR衛星は、米航空宇宙局(NASA)がアポロ17号の6年後、1978年に打ち上げた「SEASAT」だ(図1)。海洋観測を主目的とした技術試験衛星で、海上の波の状態を観測するためにLバンドレーダー*1を搭載していた。このLバンドレーダーを使って、SARで地表を観測した映像も取得した(図2)。同衛星は電源系トラブルにより打ち上げ後わずか3カ月で機能を喪失したが、SARによる観測が海洋だけではなく、陸域の観測にも有効と実証した意義は大きい。

図1 世界初のSAR衛星「SEASAT」
図1 世界初のSAR衛星「SEASAT」
米航空宇宙局(NASA)が1978年に打ち上げ、SARで地表を観測した映像を取得した。(出所:NASA/JPL)
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図2 SEASATが撮像した画像
図2 SEASATが撮像した画像
SEASATが1978年に観測したロサンゼルス。(出所:NASA/JPL)
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*1 Lバンド
マイクロ波の周波数帯域の1つ。 1GHz帯(0.5G~1.5GHz; 波長200~600mm)の極超短波(UHF)に当たり、主にレーダーや衛星電話、携帯電話などで利用されている。

 SEASATの成果を受けて、NASAはスペースシャトルに搭載するSARを開発(図3)。1981年のシャトル2回目の飛行「STS-2」に最初のモデル「SAR-A」を搭載して観測実験を実施した。その後、性能を高めた改良版の「SIR-C/X-SAR」を開発。1994年に2回の飛行を実施している。 SIR-C/X-SARはさらに改造され、2000年2月のシャトル飛行「STS-99」で北緯60°から南緯56°までの地上の3次元地形データを計測する「Shuttle Radar Topography Mission (SRTM) 」に使われた*2

図3 SARを搭載したスペースシャトル
図3 SARを搭載したスペースシャトル
「SRTM」のレーダーを展開したスペースシャトル「エンデバー」の想像図(出所:DLR/NASA)
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*2 このSTS-99には宇宙開発事業団(当時、NASDA:現JAXA)の毛利衛宇宙飛行士が搭乗している。

 旧ソ連はSARを安全保障目的の偵察衛星と並行して、ぶ厚い雲に覆われた金星の観測に使用した。1983年6月に打ち上げた同国の2機の金星探査機「ヴェネラ15/16号」は、搭載したSARを使って史上初の金星の地形観測を実施した(図4)。米国も1989年5月に打ち上げた金星探査機「マジェラン」にSARを搭載し、より精密な金星の地形図を作成した。

図4 旧ソ連の金星探査機「ヴェネラ」
図4 旧ソ連の金星探査機「ヴェネラ」
大きくパラボラアンテナを拡げた旧ソ連の金星探査機「ヴェネラ」。SARを使って、分厚い雲に隠れた金星の地表を観測した。(出所:ESA)
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