SAR衛星で得た観測情報と、顧客の持つビッグデータを組み合わせてソリューションを提供する─。そんな衛星ビジネスを展開しようとしているのが、日本の宇宙ベンチャー企業であるSynspective(シンスペクティブ、東京・江東)だ(図1)。
同社は、2018年2月に設立された宇宙ベンチャー企業だ。起業から1年5カ月の2019年7月には86億7000万円の資金を調達したと発表。「民間企業が宇宙に投資する時代になった」と話題を呼んだ*1。創業からの調達総額は109億1000万円。これによってSAR衛星によるコンステレーションに必要な衛星6機体制を構築する資金を確保できた*2。
2022年に衛星6機体制でサービスを開始
Synspective ジェネラル・マネージャーの今泉友之氏は、SAR衛星でコンステレーションを組む利点について次のように語る。
「SAR衛星の観測は雲の有無に左右されないので取得データの欠落がない(図2)。このため安定的・継続的に解析し、連続した情報を抽出できる。特に雲が多く、光学衛星の観測では多くの欠落が発生する東南アジア地域では、SAR衛星の画像に対する需要は大きい」。
同社は現在、実証衛星「StriX-α」を開発中だ(図3)*3。まず実証衛星2機を打ち上げ、次に実用衛星4機を追加して、2022年には6機体制でサービスインを予定する。将来的には25機体制を構築して世界中の任意の地点を1日1回は観測できるようにする。
多数衛星が取得する大量の観測データの受信には、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)が手掛ける「AWS Ground Station」(以下、AWS)などの地上局レンタルサービスを使用。観測データの蓄積はAWSや「Google Cloud」などのクラウドサービスを使用する。
「これまでの地球観測衛星は、衛星に加えてデータを受信する地上局やデータを蓄積するアーカイブなどを一式そろえる必要があり、初期投資の負担が重かった。クラウドと受信局レンタルサービスの出現で、地上側システムへの初期投資を抑え、かつサービス展開時のスケーラビリティを確保できるようになった。地球観測へのベンチャー参入の条件がそろった今こそ、一気にダッシュして先行者利益を得る好機だ」(今泉氏)
しかし、Synspectiveは衛星取得データの販売のみをビジネスにするわけではない。衛星データは解析によって有用な情報を抽出して初めて役に立つ。同社には衛星システム開発と解析技術の技術者がほぼ同数在籍している。解析による有用情報を活用した顧客へのソリューション提供こそ、Synspectiveが目指すビジネスだ。