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 SAR衛星で得た観測情報と、顧客の持つビッグデータを組み合わせてソリューションを提供する─。そんな衛星ビジネスを展開しようとしているのが、日本の宇宙ベンチャー企業であるSynspective(シンスペクティブ、東京・江東)だ(図1)。

図1 Synspectiveのビジネスモデルのイメージ
図1 Synspectiveのビジネスモデルのイメージ
SynspectiveはSAR衛星のコンステレーション構築と維持・運用、データ販売に加えて、収集したデータの解析やソリューション提供まで手掛ける。(出所:日経ものづくり)
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 同社は、2018年2月に設立された宇宙ベンチャー企業だ。起業から1年5カ月の2019年7月には86億7000万円の資金を調達したと発表。「民間企業が宇宙に投資する時代になった」と話題を呼んだ*1。創業からの調達総額は109億1000万円。これによってSAR衛星によるコンステレーションに必要な衛星6機体制を構築する資金を確保できた*2

*1 ベンチャーキャピタルのエースタート、同じくベンチャーキャピタルのジャフコ、芙蓉総合リース、三菱UFJ信託銀行、みずほキャピタルなど民間が主体になって第三者割当増資を引き受けた。
*2 同社は、経済産業省が2015年度から実施した技術開発プログラム「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の1テーマ、「オンデマンド即時観測が可能な小型合成開口レーダ衛星システム」が基礎となっている。同テーマは白坂成功・慶應義塾大学大学院教授がプロジェクト・マネージャーとなり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京工業大学、東京大学が参加して、重量100kg程度の小型SAR衛星システムに必要な要素技術を開発し、地上実証を行うというものだった。白坂教授はその成果に基づいて、技術経営博士でもあるコンサルティング会社出身の新井元行氏(現同社CEO)と共にSynspectiveを設立した。

2022年に衛星6機体制でサービスを開始

 Synspective ジェネラル・マネージャーの今泉友之氏は、SAR衛星でコンステレーションを組む利点について次のように語る。

 「SAR衛星の観測は雲の有無に左右されないので取得データの欠落がない(図2)。このため安定的・継続的に解析し、連続した情報を抽出できる。特に雲が多く、光学衛星の観測では多くの欠落が発生する東南アジア地域では、SAR衛星の画像に対する需要は大きい」。

図2 SARで撮像した画像
図2 SARで撮像した画像
SARで撮像した駐車場の画像。この画像から自動車台数を計測する。Synspectiveが、航空機に搭載したSARで実施した実験によるもの。SAR画像では自動車は1台ずつ分離して写ってはいないが、「どのような駐車場か」というグラウンドトゥルースと組み合わせて解析すれば、駐車場にどれだけ自動車が入っているかを算出できる。(写真:Synspective)
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 同社は現在、実証衛星「StriX-α」を開発中だ(図3*3。まず実証衛星2機を打ち上げ、次に実用衛星4機を追加して、2022年には6機体制でサービスインを予定する。将来的には25機体制を構築して世界中の任意の地点を1日1回は観測できるようにする。

図3 StriX衛星のCGイメージ
図3 StriX衛星のCGイメージ
2022年には6機体制でサービスイン。将来的には25機体制を構築して、世界中の任意の地点を1日1回は観測できるようにする予定だ。(写真:Synspective)
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*3 同衛星は重量100kgで、分解能3m(1画素が3m×3mの精度の画像を取得できる)の「Xバンド」(8~12GHz帯)の電波を使う合成開口レーダーを搭載している。同衛星は2020年第2四半期に欧州アリアンスペース(Arianespace)のロケットで打ち上げる予定だ。

 多数衛星が取得する大量の観測データの受信には、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)が手掛ける「AWS Ground Station」(以下、AWS)などの地上局レンタルサービスを使用。観測データの蓄積はAWSや「Google Cloud」などのクラウドサービスを使用する。

 「これまでの地球観測衛星は、衛星に加えてデータを受信する地上局やデータを蓄積するアーカイブなどを一式そろえる必要があり、初期投資の負担が重かった。クラウドと受信局レンタルサービスの出現で、地上側システムへの初期投資を抑え、かつサービス展開時のスケーラビリティを確保できるようになった。地球観測へのベンチャー参入の条件がそろった今こそ、一気にダッシュして先行者利益を得る好機だ」(今泉氏)

 しかし、Synspectiveは衛星取得データの販売のみをビジネスにするわけではない。衛星データは解析によって有用な情報を抽出して初めて役に立つ。同社には衛星システム開発と解析技術の技術者がほぼ同数在籍している。解析による有用情報を活用した顧客へのソリューション提供こそ、Synspectiveが目指すビジネスだ。