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 2019年12月に開催された「2019国際ロボット展」で、来場者のひときわ大きな関心を集めたロボットシステムがある。デンソーウェーブ(愛知県・阿久比町)と日立キャピタル、日立システムズの3社が共同開発したロボットシステム「RPA&COBOTTA オフィス向け自動化支援」がそれ。詳細は後述するが、ハンコの押印や紙の書類の電子化作業を自動化するものだ。

 近年、RPA&COBOTTAのように、難しくはないけれど人がやっていた作業や、主たる作業の合間に片手間でやらざるを得なかった作業、いわば“すきま作業”をロボットで自動化する動きが目立ち始めた。利用するのは可搬質量が1kgに満たないような低出力の卓上ロボットや、人と同じ作業空間で稼働できる比較的小型の協働ロボット*1だ。

*1 協働ロボット
以前は定格出力80W以上のロボットは人との接触を防ぐため安全柵で囲む必要があった。しかし、国際規格に準じた安全対策を講じて一定の条件を満たすものは出力80W以上でも人と同じ作業空間で稼働させられるようになった。

 ロボットがする仕事は、ハンコを押したり、ワークを箱に入れたり、装置にセットしたりと至って単純。しかし、それらの単純作業を「部分的でいいので自動化する」という割り切った発想の導入事例やシステム提案が増えている。完全自動化は追求しない。もっぱら人の作業の支援に使う“ゆるいロボット”(ゆるロボ)とでも言うべき、ロボット活用の発展形だ(図1)。

図1 「ゆるロボ」活用
図1 「ゆるロボ」活用
従来型の産業用ロボットは高速・大量生産に向いているが、安全柵が必要で導入ハードルが高い。協働ロボットへの期待が高まったが、速度が遅い、用途が限られるといった点が課題となった。しかし、その弱点を割り切って“すきま作業”の自動化に特化させれば高い導入効果が得られる。
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ハンコ作業をロボットに?

 前述のRPA&COBOTTAは、デンソーウェーブの小型協働ロボット「COBOTTA」2台と、スキャナーなどから成り、ハンコの押印作業などをこなす(図2*2。複数の書類が混ざっていてもロボットアーム先端に取り付けたカメラの映像からそれぞれの書類の押印すべき箇所を特定し、適切なハンコを選んで押す。ページをめくったり、押印し終わった書類を隣に移したりと、COBOTTAが器用に書類を1枚ずつハンドリングする。

図2 オフィス業務支援システム「RPA&COBOTTA」
図2 オフィス業務支援システム「RPA&COBOTTA」
デンソーウェーブの小型協働ロボット「COBOTTA」2台とスキャナー、書類搬送装置などから成る。当面は書類への押印作業と紙書類の電子化のアプリケーションを提供するが、将来は他の作業への適用も想定している。(写真:加藤康)
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*2 2020年4月時点で、ハンコの押印作業と、紙の書類をスキャンして電子化する2つの機能を持つ。

 同システム発表直後は、「そもそもハンコをやめればいいじゃん」とSNSが炎上した。高度なロボット技術を使って押印という古い商慣習をわざわざ自動化するのは本末転倒と受け取られた。ところが、いざ展示会でデモンストレーションを披露すると、好意的な反応が多かった。

 確かに作業自体は「ハンコを押す」ときわめて単純。書類を全て電子化してしまえばこのようなシステムは要らない。しかも、1枚当たりの処理速度は2分以上と人に比べれば非常に遅い。しかし、現実オフィスには押印のような非効率な単純作業が多数残っており、それに時間を取られている。デモを目の当たりにすると、そうした作業から人を解放する実効性のあるシステムとして評価する人が多かったのだ。処理速度の遅さも、人が別の作業をしている間や夜中に無人で稼働させておけば大きな問題にならない。