低価格の小型ロボットは生産現場にどのような変化をもたらすか。島津製作所では、安価なロボットアームである「DOBOT Magician」(以下、DOBOT)を使った自動化を進めている。そこで、島津総合サービスシニアキャリア部マネージャーの池尻正尚氏、DOBOTの導入を支援したGRIPS代表取締役の森田康氏、深層学習による画像処理システムを提供したRUTILEA代表取締役の矢野貴文氏に聞いた。
編集部 島津製作所のように、生産現場のちょっとした作業を低コストで自動化したい企業は多いのではないでしょうか。その際の勘所があれば教えてください。
池尻─異なる業界に目を向けることです。自分たちの業界だけを見ていると、ついつい自分たち専用のものを作りがちです。そうではなく、もし他の分野で安く、使えそうな製品があったら、まずは気軽に試してみることです。例えば、100円ショップで試しに商品を買ってみる感覚。使えなかったらやめればいい。そうやって取り組みを進めています。

大げさかもしれませんが、産業用ロボットの1軸当たりのコストは40年前と大きく変わっていません。コンピューターの世界では性能が数年で何倍にもなって、コストもどんどん安くなっているらしいですが、そういった意味でロボットのイノベーションはほとんど起きていないのではないでしょうか。そこにDOBOTといった安価なロボットが登場してきて、我々はちょっとしたイノベーションを感じているのです。
キーワードは、ロボットとかAI(人工知能)とかではなく、オープンソース*1だと思います。自戒を込めて言うと、日本の、特に製造業の人はオープンソースの発想で造られた製品やシステムを使うのが、苦手なのではないかと思います。
矢野─RUTILEAは画像検査用のソフトウエアを提供していますが、中核となるソフトは、世間に1個あればよいと思っています。つまり、最も実績があって、皆に広く使われているもの。そういうソフトウエアは、オープンソース以外にあり得ないと考えています。ただ、製造業では真逆の文化があって、現状ではあまり浸透していません。

一部の企業は、自社製品が独自開発であることを宣伝文句にしています。他社が絶対にまねできない製品だとしたら、その独自であることに価値はあると思います。でも、オープンソースの考え方では、独自に開発していること自体に、価値はあまりないのです。製品の大半をオープンソースで造り、残りの10%ぐらいをそれぞれの企業が持つノウハウで差別化していけば、競争力を十分得られるからです。
森田─オープンソースを扱えるインフラが整うと同時に、使える人が出てきたことが変化点だと思います。今まで、多くの企業では、生産技術や製造ラインは門外不出でした。そんな現場で造っているから良い製品だと、私もそう思っていました。しかし、事業でオープンソースのソフトやハードを扱いながら、多くのお客様と出会っているうちに、考えが変化してきました。

メイカーズムーブメント*2の影響もあって、例えば、生産技術を本業とする人の中にも、休日に「Arduino」(アルディーノ)のようなマイコンボードを使って工作を楽しむ人が増えていると聞きます。そうした動きが、変化の下地になっていると思います。
池尻─当社にも、会社の寮に帰宅した後、メイカーズとして創作に励む人たちがちらほらいます。