時速500kmでの運転を目指すリニアモーターカーが、2027年に開業する。高速性、利便性追求の一方で、社会からの鉄道へのニーズも変わってきた。着席を保証する快適な有料列車、観光性を重視する列車が求められ、高齢化社会を迎えホームドアなどの安全設備は一層の強化が必要になった。鉄道発の技術が社会で応用され、逆に社会の技術が鉄道のニーズを新しくする。「世界一」ともいわれる鉄道技術の現在を見ていく。

社会を変える技術は鉄道から
目次
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社会に入り込む鉄道の技術とニーズ
総論
新型コロナウイルス感染拡大のさなかにもほとんどの鉄道は普段と変わりなく運行しているように、鉄道の第1の任務は安全で速く、遅れや運休の少ない輸送サービスの提供だ。
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リニア新幹線から驚異の新発明続々、摩擦ゼロ軸受けや無電力ブレーキ
Part1 先端技術の応用
2027年の開業に向けリニア中央新幹線の工事と試験車両開発が進んでいる。同新幹線のベースである浮上式鉄道技術は、鉄道総合技術研究所(鉄道総研、東京都国分寺市)とJR東海が共同で開発してきたものだ。
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新構造と新材料で軽量化、導入進むホームドア
Part2 安全性の追求
安全性向上という社会的要請を目に見える形で実現しているのがホームドア(可動式ホーム柵)。進入・出発する列車と乗客を分離するホームドアを多くの駅で見るようになった。
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ARで製造管理、締めるボルト上に作業指示など表示して取り違えなくす
Part2 安全性の追求
鉄道車両の床下にはさまざまな機器があり、主にボルトで取り付けられている。このボルトの締め付けトルクは厳格な管理の対象だ。緩んだり外れたりすると、機器や部品の落下、車両の故障を引き起こして、人命にかかわる重大な事故につながりかねない。
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3D軌道計測で走りながら線路周囲を漏れなく把握、将来は仮想空間での設備管理も
Part2 安全性の追求
線路の保守作業に3D測定技術を応用する効率化の試みが進む。アジア航測は2019年7月、鉄道向けのサービス「RaiLis(レイリス)」を開始した。3D測定装置をトロ台車などに載せて、線路と周辺設備の3次元点群データを取得し、そのデータを分析して建築限界を確認するなどの内容。
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運行情報の伝達も充実、情報サービス一体の運行インフラ
Part3 サービスの進化
JR東日本の首都圏24線区を広くカバーする東京圏輸送管理システム(ATOS)の構築・導入に協力したのが日立製作所大みか事業所。同事業所は製鉄所の操業管理や電力の発電・送配電の管理といったインフラの管理システムの1つとして鉄道分野も得意とする。
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風景に重ねて情報を表示する車窓ディスプレー
Part3 サービスの進化
列車の窓から名所や建築物が見えたら、それについての情報を窓に重ねて表示する。次の駅の名前や到着時刻も合わせて見せる。AGCは、そのような機能で乗客サービス向上を目指す装置「infoverre(インフォベール)」の開発を進めている。
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快適シートで乗り心地向上、自動車系メーカーが知見を提供
Part3 サービスの進化
新型の鉄道車両に、快適さを高めるよう工夫を凝らしたシートを採用する例が増えてきた。2つの傾向があり、1つは近年多くの大手鉄道事業者が運行を始めた有料の着席保証列車用。もう1つは特急電車用だ。ともに、自動車部品メーカー系の企業が供給した事例がある。
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鉄道をリニューアルする、多様なアプローチ
Part4 加わる技術
鉄道分野の外から来たさまざまな技術が、鉄道を刷新する。IoT、VR(仮想現実感)、人工知能、QRコードといった、ITを中心とする技術を鉄道で生かすアイデアが続々と生まれ、従来の鉄道技術との融合によって高信頼性・安全性といったニーズを満たそうとしている。