安全性向上という社会的要請を目に見える形で実現しているのがホームドア(可動式ホーム柵)。進入・出発する列車と乗客を分離するホームドアを多くの駅で見るようになった。国土交通省によれば、導入駅数は同省が2020年3月末の目標としていた800を超えたとみられる(図1)。例えば、東京都交通局は4つの線区のうち、最後に残った都営浅草線での導入を2019年に開始。「(人身事故を防ぐ)効果は明確。早く導入したかった」(同局)という。
同3月末で176駅(9094開口)に納入した京三製作所は「従来設置できなかった駅や場所でも設置できるよう改良している」(同社信号事業部第3技術部長の谷沢秀樹氏)と話す。
取り付け工事の難しさにネック
ホームドアの設置工事では、本体を線路側から作業車で搬入。あらかじめ取り付け台を施工しておいたホームに固定する。取り付け自体は1時間半ほどしかかからない*1。
取り付け台は、ホームに貫通穴を開けるなどして施工する。同台はホームドア自体の重さ、ホームドアが乗客から受ける力を支えられるだけの強度が必要。ホーム自体にも強度が必要になるため、例えば土が盛ってあるだけのホームは補強しなければならない。通信や信号、電力といったケーブル類が通っている場合には、ホームドアと干渉しないように移設する。この工事がホームドア設置のネックになる。
その解決を図る方法の1つがホームドアの軽量化。これまで、ドアと戸袋のセットで約500kgあったのを、新しいタイプでは半減させている(図2)。ホームの補強工事が簡素に済むようになり、工事の費用と期間を節約できるため、事業者にとって設置のハードルが下がる。
京三製作所は、なるべく外形を変えずに軽量化を図った。戸袋の中にはドアを支えるフレームがある。鋼製の部材を溶接で組み立てて造るこのフレームに対して「さまざまな部材を引いたり足したりしては解析計算を実行して最適な案を探った*2」(谷沢氏)。
ドアはアルミニウム合金で造る他、ガラス製にしたり、パイプで構成したりした。ガラスはデザイン性や視認性に優れるとして以前から使われていたが、厚さが8~10mmあった。これを化学強化ガラス*3で3mmに削減、軽くした。
ガラスを硝酸カリウム溶融塩に漬けて処理すると、通常のガラスに比べて10倍程度の強度を持たせられる。ガラスには原料の1つである炭酸ナトリウムに由来するナトリウムイオンが含まれており、ガラス表面付近のナトリウムイオンをカリウムイオンで置換する。カリウムの方が大きいため、表面に圧縮応力を付与できる一方、物理強化ガラスと異なり内部の引っ張り応力が増えない。