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 「間違いなく開発が止まる」─。2020年4月7日19時、日本政府が発令した「緊急事態宣言」で、製造業各社の新型コロナ感染症(以下、新型コロナ)対応はもう1段ギアを上げざるを得なくなった。神奈川県に開発拠点があるメーカー幹部は、同宣言が製造業に与える影響について「新規製品の開発業務に支障を来す」と話す()。

表 新型コロナ流行の影響と開発の進め方
トヨタ自動車を除き、いずれも緊急事態宣言の対象となる都道府県に開発拠点を持つ企業に取材した。(出所:日経クロステック、4月18日までの取材結果に基づく)
表 新型コロナ流行の影響と開発の進め方
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在宅勤務だけでは「絶対無理」

 政府は同月16日夜、緊急事態宣言の対象を全都道府県に拡大。当初対象だった7都府県に6道府県を加えた13都道府県*1を「特定警戒都道府県」に指定し、重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていくとした。これらは従来よりも強化された外出自粛規制が要請される()。緊急事態宣言への対応で企業は在宅勤務態勢を一層加速しなければならない。安倍晋三首相は企業に「出勤を最低でも7割減らす」ように要請した。

*1 当初の7都府県は東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡。追加された6道府県は北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都。
図 緊急事態宣言の対象となる都道府県
図 緊急事態宣言の対象となる都道府県
政府は4月7日、東京都など7都府県に対して緊急事態宣言を発令。16日には対象を全国に拡大。先に対象とした7都府県に加えて新たに6道府県を追加した13都道府県を特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進める必要がある「特定警戒都道府県」に指定した。(出所:日経クロステック)
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 製造業で在宅勤務を実施してきた企業の多くは、総務や経理などの間接部門が中心で、開発部門の在宅勤務を積極的に進めている製造業は、IT事業を主力とするNECなどごく一部にすぎない*2。新型コロナの流行がここまで拡大し、切羽詰まった状況に追い込まれるまで「テレワークは実施していなかった」(キヤノン)企業は多い。それでも企業内の感染やクラスター化を防ぐためには開発部門を含めた全部門を対象に、従業員の出勤を抑える必要がある。

*2 NECでは開発部門を含めて全社でテレワークがかなり浸透している。社員は在宅でできる仕事は出勤せずに対応するのが前提。2018年には全社員が回数制限なくテレワークできる制度を導入。2019年にはコアタイムのないフレックスタイム制度を採用した。同社は、2020年に予定されていた(当時)東京オリンピックの開催に備え、東京都が企業にテレワークを要請したのを受けて、2016~17年ごろからテレワークを開始した。導入当初に生じたインフラ面や業務の進め方などに関する問題をこの数年で解消してきたという。

 開発部門で在宅勤務が進まなかった最大の理由は、出勤しなければ試作品を作れず、試験や評価ができないからだ。高性能コンピューターや大型の機械、試験設備、専用治具など製品開発に必須の設備の多くは自宅から遠隔操作では使えない。設備を利用するためにはどうしても出勤する必要が生じる。

 実際、「技術開発拠点では、設計ツールや実験設備などを操作する必要があり、テレワークには限界がある」(日産自動車)、「開発系は出勤している社員が多い。CADや実験設備など現場にいないと進まない業務がある」(ダイハツ工業)といった声が上がっている。

 トヨタ自動車は、「開発現場をよく知る上司の判断に委ね、技術者の出勤を必要最小限に抑える」という方針を打ち出した。他社も同様でどうしても必要な社員や業務に出社を絞り、開発業務の継続と新型コロナの感染防止との両立を図らざるを得ない。

 もの(ハードウエア)ではなくソフトウエアの開発であれば話は別。ソフトウエア開発が中心の企業や部門では既に在宅勤務を実施している。会社から貸与されたパソコン(PC)でプログラミングを行い、社内の高性能コンピューターにリモートでログインしてコーディングするといった一連の業務をこなしている。