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 「SKYACTIV(スカイアクティブ)-X」は、自動車エンジンにおけるマツダの技術力の高さを世界に改めて知らしめた(図1)。ガソリンを燃料としながら、量産型ガソリンエンジンで圧縮着火による希薄燃焼(後述)を世界で初めて実現した。同社がこれまで追求してきた熱効率をさらに引き上げ、燃費を従来のガソリンエンジンと比べて約3割向上させて、世界最高水準に高めた。併せて、トルクも1割以上向上させている。

図1 ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」
図1 ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」
ガソリンエンジンでありながら圧縮着火による希薄燃焼を世界で初めて実現した。(出所:日経ものづくり)
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 マツダがこのエンジンを生み出せた大きな理由の1つは、「開発部門と工場がタッグを組んだことにある」(同社)。両部門で目標を共有し、互いに意見を擦り合わせながら製造品質まで踏まえた開発を進めたからだ。開発部門だけで開発を進めていたら造れなかったと同社は言う。

 マツダではSKYACTIV-Xが高い燃費を実現するために必要な技術を生産技術部門や工場が理解し、「できない」や「難しい」といった消極的な声は上がらなかった。「むしろ挑戦であると前向きに捉えて取り組んだ」(同社)という。

燃費向上の理由を開発と生産技術で共有

 なぜ、SKYACTIV-Xは燃費に優れるのか。マツダが追究したのは、ガソリンエンジンの熱効率を大きく左右する2つの要素(制御因子)、すなわち[1]圧縮比と[2]比熱比を高めることだ。

 マツダは[1]の圧縮比を、1つ前の段階のSKYACTIVガソリンエンジンである「同-G」の14から同-Xにおいて16.3まで引き上げた。量産されているガソリンエンジンではダントツで世界一の高圧縮比である。圧縮比は高いほど燃焼・爆発(膨張)時の圧力が大きくなるため、取り出せる仕事量が増える。すなわち、熱効率が上がる。

 一方、[2]の比熱比が大きいとは、同じ量の燃料でも温度がより上昇するということだ。すると、圧力もより大きくなるため、同じく取り出せる仕事量が増えて、熱効率が高まるという仕組みである。

 比熱比を高めるには、燃料の量を維持したまま取り込む空気の量を増やせばよいことが分かっている。燃焼エネルギーの圧力変換率が高まり、圧力が大きくなって取り出せる仕事量が増えるからだ。加えて、取り込む空気の量が多いほど温度が低下するため、燃焼温度が下がる。すると、燃焼後の爆発時の温度上昇が大きくなり、圧力の上昇度合いも増すため、やはり取り出せる仕事量が大きくなる。おまけに、冷却損失*1もポンプ(吸排気)損失*2も減る。

*1 冷却損失 混合気の燃焼で得られる熱エネルギーのうち、仕事に利用できず捨ててしまう分のこと。熱が燃焼室の壁を伝わって逃げることで生じる。
*2 ポンプ(吸排気)損失 混合気の燃焼で得られる熱エネルギーのうち、吸排気行程の圧力差で生じる損失のこと。吸気行程ではスロットルバルブや吸気バルブなどを介して空気を吸引する際に吸気抵抗が、排気行程では排出ガスを排気管や触媒、マフラーを通す際に排気抵抗が生じ、それぞれ熱エネルギーを消費する。

 つまり、空気の量を増やせば熱効率をこれまで以上に引き上げられるのだ。