「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」*1というキーワードを旗印に、新たなデジタル技術の導入・活用を模索するものづくり企業が増えている。本誌のアンケートでも、6割以上がDXについて「取り組んでいる」または「今後取り組む予定がある」と答えた(「Part5 現場からの声:数字で見る現場」参照)。
新型コロナウイルス感染症の流行は、図らずもその追い風となった。象徴的なのは、在宅勤務の常態化だろう。オフィスや工場に徐々に人が戻りつつあるとはいえ、オンライン会議システムやビジネスチャットといったデジタルツールの利便性を、多くの人が実感した。
ゴールとやり方は企業の数だけある
近年唱えられる企業活動におけるDXは、個別の業務を単にITで効率化するだけでなく、業務プロセス全体やビジネスモデルそのものの見直しを指す場合も多い。
一方でITベンダー企業の売り込み文句になっている側面もある。DXの実現につながるとして、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)といった流行の技術を、自社の製品やサービスの広告塔に据えるベンダーは多い。そのためDXと聞いて斜に構える人も少なくない。「また変な横文字が出てきた」「結局はバズワードでしょ」─。新型コロナが流行する前から、ちまたでは「Industry 4.0(I4.0)」*2や「Society 5.0」*3といった、デジタル技術の活用を促す、似たような概念があふれ返っている。
「第4次産業革命」を意味する概念で、スマート工場による製造業の変革を指す。ドイツ政府が2011年に構想を発表した。同政府による「2020年に向けたハイテク戦略の実行計画」に示された10施策のひとつ。
目指すべき未来社会の姿として、2016年に内閣府が提唱した。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(同2.0)、工業社会(同3.0)、情報社会(同4.0)に続く、第5の社会像。「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会課題の解決を両立する」としている。
「世の中のDXに惑わされてはならない」─。こう語るのは、安川電機代表取締役社長の小笠原浩氏だ。同社は「YDX(YASKAWA digital transformation)」と銘打ち、デジタルデータを活用した業務改革プロジェクトを進めている(詳細は後述)。
「やりたいことはシンプルで、データで経営を見える化したいだけ」(同氏)。ところが、DX=AIやIoTなどの最新技術を活用したビジネスモデル変革、といった機運が高まるにつれ、「YDXもそういうものなのかと社内外で捉えられ、正直迷惑している」(同氏)。
最新技術や特定のシステムの導入、ビジネスモデルの変革だけがDXという訳ではない。キーワードに踊らされていては迷路に入り込んでしまう。YDXのようにデジタル化の目的が明確なら、企業の数だけやり方とゴールがあるはずだ(図1)。新型コロナという追い風が吹く今こそ、地に足の着いたデジタル化を進める好機といえる。