新型コロナの流行で展示会の中止が相次ぐ中、販路を広げる方法として「バーチャル展示会」をWebサイト上で公開するメーカーが増え始めている*1。来場者はPCのWebブラウザーやスマートフォンのアプリから展示会場に入る。画面を操作しながら、本物の展示会場の中を歩き回るようにバーチャル空間を移動して製品や技術についての情報を得られる。
中止となったハノーバーメッセの代わりに
ドイツの機械部品メーカーであるigus(イグス)は、ドイツ西部に位置するケルン市の本社敷地内に、広さ約400m2の展示会場を設営し、100点以上の製品を展示。会場の様子を360°カメラで撮影した映像を基に同社のWebサイト上にバーチャル展示会場を構築し、2020年5月に公開した(図1)。
来場者は、まるでグーグルマップの「ストリートビュー」のように、バーチャル展示会場を歩き回れる。気になる製品を見つけた来場者は、製品画像に張ってある説明ページのリンクをクリックして詳細な情報を閲覧できる(図2)。同社の説明員の姿をクリックすれば動画が開き、映像と音声で説明が流れる。訪問予約をしておけば、同社の担当者と一緒に「ガイドツアー」のような体験も可能だ。
このサイトは、中止となった産業機械の見本市「ハノーバーメッセ(Hannover Messe)」の出展の代替として開設した。新型コロナの影響で、当初2020年4月に開催予定だったハノーバーメッセは同年7月に延期が発表され、最終的に中止となった。例年、同社は同見本市に大きなブースを構えて新製品を発表していた。
igusのこの取り組みは、実は同社日本法人が先駆けだった。日本法人であるイグス(東京・墨田)では、同社代表取締役の北川邦彦氏の発案で、2015年から国内向けのバーチャル展示会を始めていたのだ。この日本法人の取り組みを、ドイツ本社が新型コロナの流行をきっかけに取り入れた形だ。
「リアルの展示会の来場者は、どうしても会場周辺に住んでいるか勤めている人に限られがち」(北川氏)。そう考えた同氏らがまず取り組んだのが、「JIMTOF2014(第27回日本国際工作機械見本市)」の出展内容のバーチャル化だった。同社は展示ブースを撮影し、その画像を利用してバーチャル展示会としてWebサイトを開設した。
さらに2016年秋には、バーチャル展示会用のスマートフォンアプリも開発して公開。同アプリには、2016年開催の「M-Tech(第20回機械要素技術展)」を収録した。アプリを起動してスマホ用の仮想現実(VR)ゴーグルにセットすれば、360°の映像が目の前に広がり、展示会場にいるような没入感を味わえる。
もちろん実際の製品に触れられるわけではないので、希望する顧客には製品サンプルを送っている。北川氏によると、日本法人から発送するサンプルは1営業日当たり50〜100個。「正確な切り分けは難しいが、(サンプル発送の)3分の2はバーチャル展示会の閲覧がきっかけ」(北川氏)だという。