1 納期遅れの経緯
今回は、生産現場のメンバーの結束力がとても強い工場(B工場)で納期遅れが生じた事例をみてみよう。
同工場で操業の先頭に立つ課長や実務経験が豊富な係長は皆、非常に仕事熱心だった。生産工程で何かトラブルが発生すると、すぐに主要メンバーが結集する。全員で問題を協議し、対策を実践するというフットワークの軽さを見せていた。
生産工程で設備トラブルが発生すると、直ちに技術課長やその部下の係長たちが集まり、一刻も早く設備を再稼働させようとする。製造課長は、設備トラブルで遅れた分の生産量を何とかリカバリーしようと関係各所に協力を要請。人を集めて段取りを工夫し、とにかく出荷に穴を開けないようにと動くのだった。
このように全員で一致団結し、難局を切り抜けるために全力を尽くすというのが、B工場の現場である。そのため、何かトラブルがあるたびに中心となるメンバーたちの意欲は高まり、結束はより強固になった。トラブルを乗り切った時には、全員で苦労を分かち合っていた。
ところが、トラブルそのものは増え続ける一方だった。新たな種類のトラブルだけではなく、過去と同じようなトラブルが何度も繰り返し生じていたのである。一方、働き方改革の導入で残業時間が厳しく管理されるようになり、休日出勤で補うという「奥の手」は使えなくなった。
そうした中で、容赦なく迫る納期のプレッシャーを受けながらの激務にあらがえず、メンバーが1人、また1人とメンタルや体調を崩してダウン。鉄の結束力を誇っていた現場が、まるで歯車が抜け落ちた時計のように機能不全に陥り、ついには納期遅れを出して顧客から厳しいクレームを言い渡されてしまった。