1 改善が止まった経緯
今回は機械装置を組み立てているD工場の事例を紹介しよう。同工場では加工設備を使う場合もあるが、複雑な生産工程の多くを手作業での組み立てや調整に依存している。人による作業が多いこともあって、生産工程に関わる改善活動が盛んだった。
その活動を率先していたのが生産課長のA氏である。A氏はとても積極的だった。関連書籍を読み込んだり外部の講習に参加したりして、蓄えた知識を現場で実践していたのである。そんな上司の姿を見て、A氏の下で働くメンバーも自然と改善活動に取り組み、良い職場風土の醸成につながっていた。
ところがある時、人事異動でA氏はB氏と交代することになる。その結果、D工場の改善活動は大きく停滞してしまった。新しく生産課長になったB氏が改善活動に消極的だったわけではない。B氏はA氏と同じように知識が豊富で、生産課長としての役目を果たそうとしていたのである。一体、何が起きたのだろうか。
実は、B氏は当初、社外の情報を参考にしつつ、新しい改善手法を探ろうとしていた(図)。赴任したD工場では自分の知る改善手法は全て実施済みで、やるべきことはやり尽くしていると思ったからである。しかし、それまで知らなかった斬新な手法がそうめったに存在するわけもない。そうして、B氏は改善活動にあまり力を向けなくなっていった。
一方、現場のメンバーはB氏とは異なる意見を抱いていた。新しい手法を取り入れるというよりも、前任のA氏が教えてくれた従来の取り組みを継続したいと考えていたのである。だが、後任のB氏は「同じ活動を何度も繰り返すのは進歩がなく、時間のムダ」と考えて、現場の意見を軽く流してしまった。こうして、D工場では改善活動が停滞し、現場のメンバーの意欲も大きく低下してしまった。