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製造業は、他の業種に比べてデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れているといわれる。ITの導入は進んでいるものの、現場ごとの管理にとどまり、全体を通したDXにはなかなか発展しないというのが実情だ。中小企業診断士を中心として製造業でのDX推進担当者やコンサルタントが集まる「生産革新フォーラム」のメンバーに、製造業DXの実態を話してもらった。

司会 本間峰一氏(生産革新フォーラム代表幹事、株式会社ほんま・経営コンサルタント)
主著として 「誰も教えてくれない生産管理システムの正しい使い方(日刊工業新聞社)」、「誰も教えてくれない部品工場の納期遅れの解決策(日刊工業新聞社)」、「誰も教えてくれない工場の損益管理の疑問(日刊工業新聞社)」
安保秀雄氏(エスエーシー代表・情報システムコンサルタント)

司会:皆さんの会社では、DXは進んでいますか? どんな状況かお聞かせください。

たてわり氏─当社のトップはDXや最新ITの導入について意欲的に指示を出してきます。しかし現場では、革新的な戦略を具体的にはなかなか描けないというのが現状です。

 社内の営業や調達、工場の各部門が縦割りになっており、システムも分断されている状態で、個別に非常に細かく業務のルール化が進んでしまっています。営業から工場への生産量の内示や、部材の調達、生産計画の立案などは全て「Excel」(表計算ソフト)ベースで管理しています。「どの製品がどれぐらい仕掛かっているか」「欠品の製品の受注残はどの程度か」といった状況もExcelのワークシート(以下、Excelシート)を見ないと分かりません。

 全体を見渡して調整できる生産管理システムが必要ですが、そうしたシステムを構築・運用できる人材が不足しています。部門間の連携を図ってもかなり抵抗を受けてしまいます。

システムが機能せず現場でExcelが乱立

ローカル氏─顧客企業やサプライヤーとの連携で、業績に大きく貢献する改革を実現できると思っています。しかしこれが難しい。

 例えば、設備事業の営業担当者が仕様をなかなか確定しないという大きな問題があります。工事が始まる前に1年半も準備期間があるのに、仕様がなかなか決まりません。最終的には工場が何とか対応してしまうという“安心感"があるためか、ひどい場合は2カ月前くらい前にようやく仕様が決まる。一度決めても急に色を変えるなど、後戻りも発生しています。

 そのような状況なのに、システム化は遅れています。導入しているパッケージ・ソフトウエアが当社の受注生産に合っていないので、ほとんどの情報をExcelかデータベースソフトの「FileMaker」でローカルに管理しているというのが実情です。

ボム氏─当社でも最近になって経営者が「DX導入を検討しよう」などと言い出していますが、足元の問題が山積しています。電子部品の受注設計生産を手掛けているのですが、設計から納品までのリードタイムが競合他社に比べて約2倍もかかります。品種数が多いので、多様な製造装置を導入していますが、稼働率が低くて何十台も止まっており、1日1ロットしか流せない場合が多いのです。

 10年くらい前に、トップの指示でERPパッケージを導入しました。しかし、生産管理にはほとんど機能しておらず、工場では部材調達と指図発行、在庫登録にしか使えません。そのため、現場で製造の順序計画を立てる人が懸命にExcelシートを作成して管理しています。部品表(BOM)も設計後にERPで作成すると部材調達が間に合わないので、Excelでとりあえず作って調達しています

司会:便利な道具ですが、Excelシートは情報を基幹システムに反映させるまでにタイムラグが生じ、操作にエラーがあっても組織として把握しにくいなどのリスクがあります。近年は事務作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)で、Excelシート同士をつなぐ例が増えましたが、やはり同様の問題があります。