機械を造る機械「マザーマシン」(母なる機械)とも呼ばれる工作機械。機械製造に欠かせない設備であることから、その受注動向は製造業全体の設備投資の先行指標とされている。しかも、工作機械の性能が工業製品の生産性や品質を左右するため、その投資動向は日本のものづくり全体の方向性を示すものとなっている。
世界市場でも日本メーカーが強い存在感を示している産業だが、他産業と同様に2020年は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響を受け、受注低迷に苦しんだ(別掲記事参照)。
しかし低迷期は既に脱しようとしている。DMG森精機取締役社長の森雅彦氏は「21年は回復を確信している」と断言する。製造業の動向に詳しい三菱UFJモルガン・スタンレー証券アナリストの佐々木翼氏は「製造現場はグローバルで人手不足に直面している。新型コロナで(同時5軸制御や複合加工機による)工程の自動化はいよいよ待ったなしの状況にある」と分析する。米中貿易摩擦や新型コロナで設備投資を抑えていた反動もあり、国内外で製造業の設備投資意欲は高まっている。
三現主義からデジタル
では、アフターコロナを見据えて工作機械メーカーはどう対応しようとしているのか。カギは、「デジタル化」「自動化・知能化」だ(図1)。
どちらも目新しいキーワードではない。例えば、デジタル化。近年、工作機械メーカー各社は、IoT(Internet of Things)やクラウド対応を積極的に進めてきた。しかし、顧客の製造現場にはあまり響いていないのが実情だった。「『製造現場は三現(現物・現場・現実)主義』と、顧客からデジタルを否定する意見をもらうことも度々だった」(DMG森精機の森氏、Part2参照)。
そうした状況を新型コロナが変えた。移動制限のために、リモートでも工場とやりとりしたり監視したりできるIoTやクラウドサービスへの関心が高まった。自動化・知能化もしかり。製造現場は、かねて人手不足やベテラン作業者の減少に頭を悩ませてきたが、装置の自動化や知能化までは踏み切れていなかった。しかし、人を増やさずに生産性を高めるべく、省人化につながる自動化・知能化に本格的に顧客が目を向け始めた。
「劇的な生産革新につながらないと投資の意味がないと顧客は感じている」(オークマ取締役社長の家城 淳氏)。中でもこうしたデジタル化、自動化・知能化を最も必要としているのが、中堅・中小企業の製造現場である。「自社の力だけでの生産革新は荷が重いとして、(顧客からは)生産ラインや工場を丸ごと面倒見てほしいとの要求が増えている」(同氏)。
中堅・中小製造業にとって自前での生産革新は難しい。「それ故、工作機械の使いこなしを含めたトータルソリューションを求めている。新型コロナでその重要性が明らかになった」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券佐々木氏)。