日本の宇宙産業の将来を担う次期主力ロケット「H3」。初号機打ち上げを2021年度に控え、その開発は正念場を迎えている。目指すは、高信頼性や低価格をセールスポイントとする「究極の使い捨てロケット」だ。米国に登場した「回収・再利用型ロケット」としのぎを削る。来るべき宇宙産業の黎明(れいめい)期に備えて、国際競争力を持つ宇宙輸送システムとして認知されるため、初号機の打ち上げ成功を急ぐ。果たして予定通り、21年度中に打ち上げられるのか。H3ロケットの現状を取材。開発・設計の態勢や投入される技術を解説する。

H3ロケット世界に挑む
目次
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需要高まる宇宙関連ビジネス、国際競争力の向上を図るH3
Part1 概観
宇宙関連ビジネスの世界では、「人工衛星を宇宙へ運ぶロケットが足りない」と言われている。この市場で日本の産業界がチャンスをつかむ土台を作る─。これがH3ロケットの担う役割だ。
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技術を集大成して全方位コスト削減、筋肉質の「使い捨て」で世界に挑む
Part2 キーパーソン
20年間にわたって使い続けられるロケット─。H3プロジェクトマネージャを務める岡田匡史氏は、H3ロケットのコンセプトについてこう語る。目指す姿は「究極の使い捨てロケット」だ。2021年度内の試験機1号機打ち上げに向けて開発は大詰めを迎えつつある。車載向け電子部品の採用やアディティブ製造の適用といっ…
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設計・部品・製造に新技術を投入、低コスト運用狙って運搬や射場に工夫
Part3 技術
低コストと高い信頼性、そして柔軟性という3つの柱を高いレベルで実現するため、H3ロケットではさまざまな新技術を導入している。それは、新開発のメインエンジン「LE-9」を中心に、機体の各所に見て取れる。組み込まれた機器だけでなく、その製造方法、さらに打ち上げを実施する射場でもH3は従来と一線を画す。
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愛知で生まれ種子島から巣立つH3、2021年度中の打ち上げなるか
Part4 現状
2021年度中の打ち上げが予定されているH3ロケット。現在、どのような状況にあるのだろうか。そもそもどこで造られているのだろうか。H3の製造拠点は主に2つ。機体は三菱重工業の名古屋航空宇宙システム製作所(通称:名航。愛知県・飛島村)。エンジンは同じく三菱重工業の名古屋誘導推進システム製作所(通称:…
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「使い捨て」対「回収・再利用」、世界の潮流にH3は乗れるか
Part5 展望
H3ロケットの基本的な設計思想は「使い捨てロケットを極める」というものだ。これは打ち上げたロケットを回収せずに、ペイロード(積載物)の単位重量当たりの打ち上げコストを最小にするという考え方だ。一方、海外では、米国の宇宙ベンチャーSpaceX(スペースX)が「ファルコン9」(Falcon 9)で実現…
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過半が「再利用タイプが主流に」と予想、独自ロケット保有と基幹産業化に期待
Part6 数字で見る現場
ほとんどの回答者が「日本は宇宙輸送システムを独自に持つべきだ」と考えている─。日経ものづくりが2021年1月に実施した「宇宙関連ビジネス」に関するアンケート調査ではこんな結果が出た。宇宙関連ビジネスへの関心は高く、中でも「人や物資の輸送」や「リモートセンシング」が役立つと考える向きが多いようだ。自…