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 宇宙関連ビジネスの世界では、「人工衛星を宇宙へ運ぶロケットが足りない」と言われている。この市場で日本の産業界がチャンスをつかむ土台を作る─。これがH3ロケットの担う役割だ。

 もちろんH3ロケットで全てに対応するわけではない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、つまり日本という国が開発を主導する基幹ロケットとしては、H3よりも小型な「イプシロン」も用意して、宇宙輸送システムを利用する際の敷居を下げる。

 ライバルは国内外に存在する。国内では、より小回りのきく民間企業が安価で機動性の高い小型ロケットの打ち上げに取り組む。

 海外に目を向ければ、今後の強力なライバルとなりそうなロケットがある。「回収・再利用型ロケット」だ。「使い捨て型ロケット」のH3とは異なるアプローチで、安価な宇宙輸送システムの構築に挑んでいる。

 世界的に人工衛星ビジネスの動きは活発になっており、打ち上げロケットのニーズは高まる一方だ。

大型ロケット

H3
H3
H-IIA/Bよりも機体や、積載物を収容する衛星フェアリングを大型化。全長は約63m。コアロケットの直径は約 5. 2mだ。 (出所:JAXA)
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 人工衛星や探査機などを宇宙に輸送する日本の基幹ロケットのうち、現時点で大型ロケットとして運用しているのがH-IIA/Bロケットだ。H-IIA/Bの運用で蓄積した技術を活用し、「低価格」「高信頼性」「柔軟性」をコンセプトに、より国際競争力を持つロケットとして開発されているのがH3ロケットだ。H-IIA/B に比べて大型化を図りながら、受注から打ち上げまでの期間をH-IIA/Bの約2年から約1年へ半減。打ち上げ価格もH-IIA/Bの半額に相当する約50億円を目指す。

 価格を下げて打ち上げまでの期間を短縮し、需要を高めて打ち上げ頻度を上げるのが狙いだ。H3は当初、2020年度の打ち上げを予定していたが、主エンジンの燃焼試験でのトラブルを理由に延期。21年度中に打ち上げを予定している。JAXAは打ち上げ成功後、毎年6機程度を安定して打ち上げられる体制づくりを目指している。

小型ロケット

 日本の基幹ロケットの中で、小型人工衛星打ち上げを主目的とする小型ロケット。H-IIA/BやH3の主エンジンが液体燃料エンジンなのに対して、イプシロンは固体燃料エンジンを搭載している。開発中の「イプシロンS」では第1段を、H3ロケットの固体ロケットブースターであるSRB-3と共通化。この他、アビオニクスなども共通化してコスト削減を図る。

イプシロン
イプシロン
全長24.4m。直径は2.6m。2013年に試験機の打ち上げに成功。19年には4号機を打ち上げている。開発中のイプシロンSは2023年に打ち上げ予定。 (出所:JAXA)
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