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放熱対策の切り札、液体金属

 メイン基板を取り外すと、メインプロセッサーの上に銀色のTIM(熱伝導材)が見える。これは液体金属TIM*1である(図7)。

*1 SIEは今回採用した液体金属TIMの組成などを明かしていないが、ガリウム、スズ、インジウムの共晶合金であるガリンスタンを主成分とするとみられる。
図7 触っても指に付かない液体金属TIM
図7 触っても指に付かない液体金属TIM
図6の面の反対側には、メインプロセッサーがある。これに被さるようにメインフレームがある。メインフレームの上にあるヒートシンクとメインプロセッサーの間には液体金属のTIMが塗られている。常温で液体であるため、基板上に漏れ出ないように周囲はスポンジや接着テープなどで囲われていた。塗布されている液体金属TIMに触っても、指には付着しなかった。(写真上:加藤康、下:日経クロステック)
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 液体金属のTIMは、サーマルグリスといった従来の熱伝導材に比べて高価である。この点について、SIEハードウェア設計部門 メカ設計部 部長の鳳(おおとり)康宏氏は日経クロステックの取材に答え、「熱源付近で効率よく熱を回収できれば、ヒートシンクや冷却ファンにコストをかけなくて済むため、逆にトータルコストを抑えることができる」と説明している。

 メインプロセッサーの反対側は、鉄製のメインフレーム(シールド板)に取り付けられた大型ヒートシンクに液体金属TIMで接している(図8)。この大型ヒートシンクでは、冷却性能の向上とコスト削減の両立を図った。「安価なヒートパイプを利用しつつも、形状やエアフローの工夫によって、高価で冷却性能に優れるベーパーチャンバーと同等の冷却性能を達成した」(鳳氏)という。

図8 ヒートパイプを用いた巨大なヒートシンク
図8 ヒートパイプを用いた巨大なヒートシンク
図7のメインフレームの裏側には、大きなヒートシンクがある。このヒートシンクは、6本のヒートパイプを用いた巨大な構造物だ。放熱フィンの外側にヒートパイプを曲げて伸ばす立体構造とすることで、放熱範囲を広くしている。(写真:加藤康)
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 具体的には、ヒートパイプを3次元(立体)的に曲げた構造を採用。ヒートシンクにある3つの放熱フィンのうち、1つの放熱フィンの上側と下側にそれぞれヒートパイプを通して、この放熱フィンの冷却性能を高めた。ある程度の大型化を許容したからこその設計といえる。

 PS5のメイン基板は1枚で、全体を広く使いながら両面に部品を実装している。表面にあるメインプロセッサーは、IC自体に刻印がなく、代わりに周囲のスティフナー上にメーカー名や型番が刻印されていた。