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10年を経過した福島第1原子力発電所の廃炉プロジェクト。その技術的な意味について、廃炉の総責任者である福島第一廃炉推進カンパニーの小野明氏にノンフィクション作家の山根一眞氏が聞いた。

福島第一原子力発電所〔1F(イチエフ)〕の廃炉は、日本にとって明治維新までさかのぼっても例がないくらいのとてつもないプロジェクトと思います。

小野:プロジェクトといっても、1Fの廃炉プロジェクトには1つだけ、普通のプロジェクトと大きく違っているところがあります。普通は、石油コンビナートを造るとか、ビルを建てるとか最終的な姿がある程度固まっていて、そこに至るのにどういう技術を使えばいいかも見えていて、コールに向かってどんどん進めていくものと思います。ところが1Fの廃炉はゴールが変わるというか、燃料デブリもまさにそうですけども、情報が入ってくるにつれてやり方を柔軟に変えていかないと進まない。そこが大きく違うと思っています。

そうすると「中長期ロードマップ」(2019年12月27日、廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議決定)は一応の目安ではあるけれども、それで「予定よりもこんなに延びたじゃないか」とか言われても困るわけですね。

小野:中長期ロードマップは、それに向かって進むべき大きな目標だと思っています。そのロードマップや規制庁リスクマップ(「東京電力福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ」、2020年3月4日、原子力規制委員会決定)をベースに、我々のいろいろな作業をどう積み上げていって、いつごろまでにどんなことをやれば目標を達成できるか、という「廃炉中長期実行プラン2020」を20年3月に作りました。東京電力としてはこれを作って満足することなく、最低でも1年に1回ずつ見直さなければいけないと思っています。新しい情報が入ってきたら、その情報に照らして我々が今進もうとしている道が本当に一番いいのかどうかを常にチェックする必要がありますから。

新しい情報を基に方針を見直すというのは、例えばどんなことがありましたか。

小野:2年くらい前ですけれど、注水中の1〜3号機以外の建屋の地下から水を抜こうとしたときに、順調と思っていたら放射線量が想定より大幅に高い場所があると分かりました。調べたら、事故の直後にゼオライトの土のうを設置していて、ゼオライトの性質によってセシウムを大量に吸着していた。そうなると、まず土のうを取らなきゃいけないというシナリオが入ってくるわけです。

目標達成の時期を伸ばすのか、それとも伸ばさずにできるようにするかという問題も出てきますね。

小野:その通りです。他のプロジェクトとの兼ね合いも調整することになります。

小野 明氏
小野 明氏
福島第一廃炉推進カンパニー プレジデント (東京電力ホールディングス常務執行役)(写真:東京電力ホールディングス)
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プロジェクトは、大きく分けて幾つあるんですか。

小野:現在のプロジェクトの数は44ですが、これをさらに大きなくくりで5つの「プログラム」に分けています。「汚染水対策」「使用済み燃料プールからの燃料取り出し」「燃料デブリ取り出し」「廃棄物対策」「発電所敷地管理・労働環境」の5つです。

1・2号機排気筒解体についてですが、準備段階の想定と実際の高さが違っていたとか、刃物が食い込んで動かなくなってしまったとか、幾つかトラブルがありましたよね(Part3参照)。

小野:はい。ご心配をおかけしたみなさまにお詫びしなければなりません。排気筒解体工事では地元企業のエイブル(福島県大熊町)に大変なご尽力をいただきましたが、高さが違った件は、エイブルに東電が渡していた情報が間違っていたので、我々が反省するところ大です。もう1つ大きな反省材料があって、建築・機械・電気と複数の知見を一体にしないとプロジェクトが効率的に回らない、とよく分かりました。建築の技術者をメインとしてプロジェクトを組んでいましたけど、それだけでは駄目でした。